適当に勝とう大作戦
勝者が決まる合図と共に別のチームが戦いに呼ばれる。
『な、なんだあれ』
魔力の糸が見えない魔法なんて存在するのか。
「……ヘルスパーダ、情報共有者ね」
「何が?」
「さっきの」
サラって物知りだなあ。
「へえ」
「上位クラスでは、下位でいびってる子供って言われてる」
「どうして?」
「情報共有って英雄にも届くのに、こんな底辺で無双。滑稽じゃない?」
確かに強いなら滑稽かもしれない。
「そもそも情報共有が分からん」
「他の人間に見たモノを全て伝える力と存在する物質に意思を共有する力が基本」
意思を共有して土を色々していたのか。
「これは厄介だな」
「私も厄介な上位クラスなので」
「否定しないな」
『そーですか厄介ですか』
サラが別のソファーに逃げていった。
「……なあ、片手でどこまで行ける?」
俺の隣にガロードが座ってきた。
腕の心配をしてくれてるらしい。
「別に、両手で握るスタイルじゃないし」
「分かった」
それからぼーっと映像を眺める。
途中でスカーと金髪ちゃんが頭をぶつけた。
「ごめん……」
尻もちをついたスカーに金髪ちゃんは手を伸ばす。
「いいよ」
その手を取ったスカーがゆっくり立ち上がった。
「なにしてたんだ」
「……別に」
スカーはそう言って離れていく。
ガロードが「喧嘩したのか?」って聞いてくる。
「したのかもしれないな」
「分かんねえのか」
「そりゃ、女の子って繊細だしな」
「それな」
今回の戦いも勝者が決まって。
『転送します。三、二、一』
俺達が呼ばれた。
カウントダウンの後、リュウキ達はモニターで見ていた世界に立っていた。
周囲を見ると観客と思われる人が見えている。
その人達が今から戦うクラスメンバーを囲むようにクリエイトされた椅子で安全な所から眺めている。
「すげえ」
リュウキが驚いたのは付けてなかった剣が付いていること。
腰に三本の剣、背中に二本。さっきまで付いてなかった。
空からアナライザーマグナムが一本だけ降ってくる。
「使ってね」
ぽつりと呟くスカー。
その剣は地面に刺さると、便乗するようにフシューと煙を吐いた。
「……」
リュウキが振り返らなくても、スカーは下唇を舐めて何も言わなかった。
『戦闘開始! ご武運を!』
「適当に勝とう大作戦で行くぞ」
アナライザーマグナムを拾ったリュウキは左手のアームをだらしなく下ろして走り抜ける。
ガロードもその後を追って土の剣をクリエイトした。
残りの三人は戦いを見守っていた。
特に支援する訳でもなく、二言くらい交わす。
「魔法要る?」
「要らなさそう」
割と勝てそうというだけで、サボる事にしたのである。
戦線に斬り込んだリュウキは飛んでくる魔法に対してスライディングでギリギリ避ける。
「なんか突っ込んでくるぞ!? 誰だアイツ!」
「剣一本とか馬鹿だろ!」
迫り来る魔法に対して大剣を振る。
魔法を無効化して止まった剣の腹に、ガロードが飛び乗る。
「飛ばしてくれたら、荒らし回ってやるよ」
「それは楽で助かるな」
もう一度強く振ってガロードを飛ばす。
敵陣に飛び込んだガロードは着地すると。
「魔法よりこっちだな」
剣を投げて牽制してから、もう一度二本の剣をクリエイトする。
この辺のレベルとなると敵の中にも剣士が一人居る。
「へえ、お前も?」
『残念、同類ではなさそう』
ガロードの剣を交わした女剣士が、左手で炎の弾丸を放つ。
「ぐあっ」
横腹に命中した弾丸にガロードがよろける。
「貰った!」
キンッ!
強く弾いて土の剣が折れる。
追撃する為に剣先を向けて駆ける。
二人の間を風のオーラを纏った剣が抜けた。
一瞬遅れた暴風が追撃を失敗に終わらせる。
よろける女剣士とわざと吹き飛んだガロード。
「助かったわ……」
ガロードと入れ替わるようにリュウキが立つ。
「ダメそうだな、俺の剣がなかったら死んでたぞ」
「やっちまったわ」
風のオーラを投げるまでに二人の魔法使いを仕留めたリュウキが立ち塞がる。
視界の隅で棒立ちの仲間に苛立ちを覚え、強く大剣を叩きつけた。
『右手だけで相手にしてやるよ』
アナライザーマグナムが呼応するように強く光り。
変形した。