ひかれていた
『リュウキに守ってもらいたいなあ……』
我慢できなくなったスカーはトコトコ走り始めた。
「あれ、行っちゃうんだ?」
「これで本格的にサボれるわ!」
「ええ……?」
変形したアナライザーマグナムが光のブレードを射出する。
無数に出された光が魔法使いを襲う。
「ぎゃああっ!」
「来るなああ!」
魔法では防ぎきれない光の刃に貫かれた魔法使いが腹を抱える。
「大丈夫か!」
「……」
膝から崩れ落ちた男を横目に、光が女剣士を襲う。
「こしゃくな!」
無数の刃を弾いて叩き落とすと睨みを効かせて近づいてくる。
「倒れないのか」
リュウキは大剣に戻っていく途中で振り下ろし、接近を防ぐ。
飛んで避けた女騎士を薙ぎ払う動きで追撃する。
女剣士は弾いた力を利用して、綺麗に宙を舞うと。
回転しながら剣を叩きつけた。
リュウキが大剣を横に傾けて受け止める。
火花が跳ね、リュウキは大剣を手放して素早い動きで剣の下を通り抜ける。
腰の剣を抜いて瞬速の居合い斬り。
「くっ……」
抜けた斬撃が女剣士の腹を裂き、大剣が鈍い音を立てて落ちる。
怯んだ隙を狙った連撃は見抜かれ、鍔迫り合いで押し出された。
大きく下がったリュウキは剣先で睨んだ。
『リュウキ〜』
地味な戦いにイレギュラーが発生する。
二人の間を堂々と走るスカー。
そのまま小石につまづいてずっこけてしまった。
「いてて……」
完全に戦況が停止する。
起き上がろうとしたスカーの背後に剣が向けられる。
「……ッ!」
女剣士のする事に気づいたリュウキは、持っている剣に風を纏わせる。
僅かに宿っていた剣の魔力が緑色に光る。
『させるか!!』
放った剣が女剣士の横を抜け、巻き起こる強風に体勢が崩れた。
振り返ったスカーが声に気づいて周りを見る。
向かってくるリュウキと吹き飛ぶ女の人。
近づいたリュウキに手を伸ばして精一杯のアピールをする。
「なでなでしてー」
膝立ちのスカーに気づくとしゃがみながらスカーを撫でる。
「えへへ……」
女剣士が手を向ける。
無言で生み出された火球が近づいてくる。
リュウキは右手でスカーを抱き寄せた。
「きゃあ」
バックステップを踏んでその場から大きく距離を取って火球の爆発を見送る。
魔力の糸でどこから魔法が現れるのか、手に取るように分かる。
「大丈夫か?」
「スカーを守ってくれた……!」
「当たり前だろ」
糸から逃げるように歩いて魔法を避ける。
「実はね、さっきの魔法、怖かった」
「……」
「でもリュウキが居るから怖くない!」
「怖くないなら頼んでもいいか?」
リュウキはスカーを抱えてるせいで攻撃手段の欠如に悩んでいた。
まだアームになれてないリュウキは右手で物事を処理するしかない。
「なになに?」
「前を向いて、魔法を使って欲しい」
「……」
「してくれないと勝てないぞ」
念を押すリュウキ。
「むう、守られたいもんっ」
「終わったらキスしてあげるから」
本当に勝ち目がないリュウキは代償を提案する。
「じゃあ頑張る……」
簡単に答えたスカーは首だけ動かして女剣士を見据える。
「降りたくないや」
手をグーにして人差し指と親指を立て、ピストルのように女剣士を捉える。
魔力の渦が竜巻を起こし、対象を取り込む。
宙に投げられた女剣士が脱出を図って、めちゃくちゃに魔法をばら撒く。
「スカーがしたいこと、分かるかな」
「ああ、分かるよ」
「ほんとう?」
「バーンってするんだろ」
「……正解」
スカーの人差し指から魔力の電撃が放たれる。
バリバリバリ!
ありもしない手の反動と共に、女剣士を光が貫いた。
女剣士が風の中で落下していく。
「本当にすぐ終わったな」
「チューするやくそく!」
地面から降りたスカーがリュウキに約束をせがむ。
「分かった分かった」
スカーの目を見ながら、唇に近づく。
「ん〜」
重ねようとした瞬間、背景が音を立てて崩れた。
戦う前まで居た待機室に塗り変わる。
俺はソファーに座っていた。
『お疲れ様です』
「……そう言えば、サラ達って何してた?」
戦ってる時にサラが近くに居た記憶がない。
金髪ちゃんと仲良く棒立ちだった気がする。
「戦ってました、はい」
「うん? うん、そうだよ」
まあ、勝てたからいいか。
「絶対サボってただろ……」
ガロードは確信があるみたいだな。
「ま、俺はトイレしてくるよ」
席を立つとスカーもついてきた。
「来なくていいよ」
「ベルト、片手じゃできないよ?」
「それは……」
確かにって思ったから、特別に同行を許した。
トイレのドアはこれか。
……違った、隣の奴がトイレだ。
入って閉めずにスカーを見る。
「来ないのか?」
「今日もお願いしますって言って」
昨日はお世話になってないと思うんだけどな。
言わないと進まないから言っておくか。
「今日もお願いします」
「分かりましたぁ……」
そんなにかしこまらなくてもいいのに。
ズボンを下ろした俺はため息と一緒に座った。
「ふう、キツかったな」
思った以上に女剣士が強かった。
ガロードが不意打ちされるなんてよっぽどだ。
「スカー、なんであんな所に来たんだ?」
俺の前でコケちゃったし。
「ひみつ!」
「コケた時泣きそうだったよな」
涙を溜め込んでプルプルしてた。
「スカーはもう泣かないもん……」
「へえー」
強くなろうとしてくれてるんだな!
「本当かよ」
「だって、本当に泣きたいのはリュウキだから……」
「もう気にしてないぞ」
本当はめちゃくちゃ気にしてて、食事が心配でつらいところだ。
「よしよししてあげたいもん」
「そうかー、偉いなあ」
立とうとすると肩に体重を乗せられて。
「……」
俺の太ももに堂々と座ってくる。
「なにしてるんだ」
「さっき、チューができてなかった」
「ここはトイレだぞ」
「どこでチューしてもチューだもん」
近づいてくる唇を止める術がない。
狡猾にもスカーは舌を差し込んで来た。
口を閉じて拒んでいると。
「開けて、おねがい……」
やめてくれないみたいで、悟った俺は受け入れる。
忍び込んできた舌は嬉しそうだった。
「んっ」
溜まった唾液をスカーは余すことなく掠め取っていく。
吸い取られていく度にゴクゴク喉が鳴る。
クチュ。
音を立てて離れていくスカーの唇から、透明な糸が。
互いにひかれていた。
引かれていたと思います。だからこそ、互いに惹かれていたと思っている。




