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白昼夢








『リュウキに殺されたい』



 細い首に触れるとスカーの息遣いが手に取るように分かる。


 空気が通る度に薄い皮膚の奥が振動する。



 いや、本当に手に取っているんだ。



 しようと思えば、その息を封鎖して。


 泣かせた先へ、スカーを横断させれる。


「狂ってる、お前は」


「だってリュウキは愛してくれないじゃんか」


「キスしてやろう」


 俺は尖った唇を慰めるように舐める。


「そうじゃ、ないよ……」


 首を横に振ってスカーは否定する。


 溜まった涙が瞼の動きで弾かれる。


 前みたいに俺は舌先でその涙を舐め取った。


「言ってみろって」


「言わないと、分からない?」


「……」


 精一杯、俺は考えた。


 なんて言いたいのか? どうして欲しいのか?


 全然、分からなかった。



 俺は細い首に縋りついた。



「が……!」


 なあ、これが欲しいんだよな。


 ちょっと嬉しそうだな。


 苦しい顔じゃ、何も分からないけど。 




「はっ、はな、はなし、て……!」


 強く叩かれる手に気づいて離す。


「っ……っ……!」


 スカーの辛そうな姿に背中を撫でる。


 ちょっとだけのつもりだったのに。


 加減できなかった。


「ごめん、大丈夫か」


 顔を覗きながら声を掛ける。


 燃えたように赤かった表情が落ち着いていく。


「死にたく、なかった……」


 出てきた言葉は俺を怒る声じゃなくて。


「リュウキに会えないのはもっと辛いよ」


 スカーは俺を見てポロポロ泣き始める。



 拭っても、拭っても。



 頬を濡らした液体が首へフェードアウトしていく。



「リュウキ、ハグして、おねがい」


 応えるようにギュッと抱きしめる。


「怖かったよぅ」


 甘えるような声で頬を擦りつけてくる。


「……悪かった」


「リュウキは悪くないよ」


 スカーは顔を上げて俺に微笑みを見せた。


 優しいな。


「もっと温かくなりたい」


 スカーのリクエスト。


 制服のボタンを外してジャケットを開く。


「ほら」


「やったあ……」


 招くと腕をシャツに絡ませて抱き直してくる。


 互いに顔だけ出して体をジャケットに包む。


 密着したスカーの体は冷たい。



『女になってから、寂しいと怖い』



 目の前で呟くスカーの冷たい吐息が俺を撫でる。


『その時はいつも寒くて』


 近い距離でスカーが物欲しそうに見てくる。


『リュウキと居ても寒いと寂しいんだ』


 寂しがり屋の寒がり屋にキスを送った。


「んっ」


 少しだけ熱っぽくなる程度の行為。


 やめると不満そうにスカーが舌を鳴らす。


「魔力があれば魔法で暖めてやれるのにな」


 これでもスカーは冷えたまま。


 こんな時ほど非力な自分を呪う。


 打開できない格下人間。


「血、飲んでみたら」


「血だと」


「魔力が一番含まれてるのは血液って、アステル杯の時に」


 ああ、俺を馬鹿にした奴が言ってたな。


「俺がスカーの血を飲めば魔力を得れるんじゃないかって?」


「うん」


「ちょっとだけ、してみたいな」


 ジャケットからスカーを離す。


 どうやって血を取ろうか。


「さ、寒い」


「あの日からジャケットを着てるじゃないか」


 そのせいで俺はスペアを着ることになった。


 そのスペアをさっきまで一緒に着ていたのに。



『寂しいよ……』


 スカーがうるうる涙を見せる。



「分かったから」


 スカーの冷たい両手を包むように握る。


 口元に近づけて息をフーっと吐いてみた。


「あったかーい」


 それでも手は冷えを戻してしまう。


「もうジャケット脱げ」


「え……」


 スカーが驚きを見せる。


「寒いなら、着てても意味ないだろ?」


「そ、そだね」


「とにかく脱げ」


 スルスルとジャケットは落ちていく。



『リュウキきらい……』



「はいはい」


 俺もジャケットを脱いでスカーに重ねる。


 気づくと素早く袖を通してくれた。



『リュウキすき……』



 一定の効果はあるらしい。


 その証拠に、スカーの頬が緩んでる。


 代わりにスカーが脱いだ服を貰う。


 着てみると非常に冷えていた。


 もしかしたら、この部屋よりも冷えてる。


 こんなものを着ていたら寒い、着ない方がマシ。


「匂い、嗅いでみて」


 言われて鼻を近づけるとスカーの匂いがした。


 スカーが俺に近づいてくる度に、感じる甘いような匂い。


「いい匂いだな」


「えへへ」


 大袈裟に嗅ぐと本当に嬉しそうだった。


「……血は出せるのか?」


「刃物で斬れば」


 スカーは包丁のような氷の刃を右手に生み出す。


「して欲しい?」


「魔力使えたら便利だしな」


「もっと直接的に言って欲しいよ」


 直接的ってどういうことだ?


 なんとなく挑戦してみる。


『お前の血を飲みたい』



「……沢山あげる」


 スカーは左手首を晒して、刃を近づけ……。


「待て」


 嫌な予感が浮かび、手を掴んで止める。


「なんで?」


「リスカ、しようとしてただろ」


 血は指先をちょっとだけ切るだけで済む。


「リュウキが飲んでくれるなら、大量に飲んで欲しいよ」


 近づきそうになる刃物を止める。


 スカーの手が刃向かう力でプルプル震える。


「おねがい、させて?」


「させれるわけねえだろ……」


 刃を没収して手を拘束する。


 片手でも許したら氷の武器で傷をつけそうだ。


「リュウキのわがままばっかり、ずるい」



 機嫌を悪くしたスカーが上目遣いで睨んでくる。



「……許さないもん」


 キスで誤魔化す作戦は失敗に終わった。


「俺が傷をつけるならどうだ?」


「……いいよ」


 氷の刃を手に取って、スカーの要望を聞く。


「どこにして欲しい?」


「手首」


 スッと差し出される真っ白な手の首。


 俺が浅く切って誤魔化せば、傷は残らないかもしれない。


「良いんだな?」


 手の震えから誤魔化したくて、スカーの二の腕を嗅いだ。


「うん……」


 柔らかい皮膚を氷の刃で撫でる。


「綺麗な肌なのに」


 寂しい彫刻から散漫するのは、やけに冷えた白昼夢。


 夢みたいに手を引いた。


 切れるような音はしない。


「…………」


 澄んだ空気が濁ったように吸えなくなっていく。


 あんなに望んでいたスカーは、何も言ってくれない。


「……」


 何を切ったんだ、俺は?

 









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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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