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ちょっとエッチで可愛い妖猫と送る甘い生活  作者: 白田 まろん
第一章 かまくんとりいり
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大きな猫は小さな少女でした 1

 俺と梨依里(りいり)が出会ったのは高校入学の少し前、山に(まき)拾いに出ていた時のことだった。


 うちはいくつかの山持ちで、そこでは多種多様な山菜が豊富に採れる。そのほとんどの採取権を人に貸して、お陰でそれなりに裕福な暮らしを営んでいた。しかし何分(なにぶん)田舎なので、ガスが使えるようになったのもごく最近のことだ。それまで風呂や飯炊きは主に炭や薪が活躍していたほどである。


「んじゃ親父、行ってくる」

「おう、熊には気をつけろよ」

「そういや親父、鎌は見つかったのか?」

「いやあ、それがどこ探しても見つからなかったんだよ。やっぱり山に置いてきちまったのかなあ」


 その日もそんな会話を親父と交わした。


 親父は先日山に入った時に、道を切り開くための鎌をどこかになくしてきたらしいのだ。それほど大きなものではなかったが、刃渡りは五十センチ近くあるので簡単になくすような小さなものというわけでもない。


 どこかの草むらにでも転がっていたら危ないので、見つけたら拾ってくることにしよう。それから使えそうな薪を充分に拾って山を下っていると、見たこともない真っ白な毛の(かたまり)がところどころを血で赤く染めてうずくまっていたのである。


「どうした、大丈夫か?」


 人間の言葉が通じるわけはないのだが、毛の塊は気を失っているもののまだ息があったので、ひとまず(かつ)いで家に連れ帰ることにした。手当をしてやって元気になればいいし、命を落としたらそれはそれでコイツの運命だったということになる。


「なんだ、猫か? それにしちゃでけぇな」


 怪我が悪化しないようにそっと降ろして土間に横たえた毛の塊は、顔を見るとどうやら猫のようだった。しかしただの猫にしては小学校高学年の子ほどの大きさがある。その巨大さに親父も驚いていた。


「怪我してんのは一カ所だけみてえだが深いな。()みるが辛抱しろよ」


 言いながら親父が焼酎を口に含み、傷口に向かって吹きかけた。そのあまりの痛みに意識を取り戻した大きな猫が暴れ出そうとしたが、俺ががっちりと押さえ込んで動きを封じる。


「お前を殺そうというわけではないから我慢しろ。痛みはすぐに引く」


 俺の言葉が通じたとは思えなかったが、大きな猫はそれで暴れなくなった。しかし消毒はしたものの俺も親父も獣医ではないから、傷口の縫合(ほうごう)なんて出来るわけがない。仕方なしに軟膏(なんこう)を塗ったガーゼを当て、包帯でぐるぐる巻きにしてとりあえずの治療を終えた。そして俺は夜中に猫が動こうとして傷口が広がるのを防ぐため、添い寝してずっと頭や喉、それから全身を撫でてやったのである。


「お陰で傷もだいぶよくなりました」


 翌朝、いつの間にか眠っていた俺と親父は、声に目を覚まして仰天することとなった。その大きな猫こそが今の梨依里だったのである。背中にはまだ少し傷痕が残っていたものの、猫は人間の、それも少女の姿に変わっていた。もちろん全裸だ。


 人懐っこそうな大きな瞳と小さな口は、いわゆる小動物系の可愛らしさである。加えて猫なら大きいが人間ならむしろ小さいと言える身長とは対照的に大きな胸。さらにそこから想像しにくい細い腰と細い脚は、子供とは思えない色気を醸し出していた。


「お、お前、な、何者だ!」


 親父は恐れおののいていたが、俺はそいつを怖いとは思わなかった。


「親父、落ち着けよ。多分コイツ何もしてこねえから。な? お前まさか俺ら親子を食おうなんて思っちゃいねえよな?」

「あなた方をですか? なぜ命を救って頂いたのにそのようなことが出来るとお思いなのですか?」

「ほら見ろ親父、大丈夫だよ」


 俺は親父を落ち着かせて、ひとまず粥でも用意してもらうことにした。さっきからしきりに少女のお腹から空腹を知らせる可愛らしい音が鳴っていたからである。それはそうと元は猫なんだから、冷ましてやらないと食えないかも知れないな。ついでにツナ缶があったはずだからそれも混ぜてやれば喜ぶだろう。


「そんでお前、本当は何者なんだ?」

「私は……そうですね、人の言葉で言うならあやかし……妖猫(ようびょう)とでも言うのでしょうか」


 少女は少しの間考える素振りを見せてから、顎に人差し指を当てて俺の問いにそう答えた。何だかその仕草があまりに可愛らしかったので、あやかしと言われても全く怖さを感じなかった。

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