食卓
「「「……」」」
カチャカチャと。
食器が動いた時に出る音しか響かない食卓。
この雰囲気は大分重苦しい。
ボクは好きでないが、直そうとは思わない。
こうなった原因は分かっている。
バカ兄貴を上手く見れないボクと、いつもより難しい顔をしているバカ兄貴のせいだった。
今の空気。
ボクもバカ兄貴も参っているだろうが、ボク達2人よりも嫌っている人がいた。
「何かしら、この空気?」
料理が並べられてから現在まで。
誰1人言葉を発さなかった中、ついに夏姉が沈黙を破る。
「悟、進と何かあったの?」
「いや……別に何も」
「嘘ね」
夏姉はボクの言葉をそう切り捨てる。
「何故悟が挙動不審なのか、色々と考えたけどこれしかないわ――悟、あんた進と何かあったでしょ」
ずっと黙っていたのは思考を繰り返していたからか。
お茶らけた態度で周りを明るくするのが得意な夏姉。
しかし、夏姉の一面はそれだけでなく、人の上に立つ――生徒会長としての側面もある。
そのため何か問題が起こっても大っぴらに騒ぎ出さず、十分な時間と推測を重ねて決断を下していた。
「まあ、大体予想は付いているけど」
そう嘯く夏姉からハッタリの色はない。
ボクはこれまでの、夏姉の傾向から大方の結論を出したのだと考えた。
「少なくとも楽しいご飯タイムを苦痛の沈黙タイムへ変貌するのは頂けないわ」
夏姉は言葉を続ける。
「けれど、だからと言って悟の気持ちを踏み躙るわけにはいかないわね」
「夏姉……」
夏姉の気遣いにボクは言葉が詰まる。
夏姉は傍若無人に思われても、最後の一線だけは守ってくれる。
これが夏姉の魅力の1つ。
もしここでボクの気持ちを暴露・詰問をすればボクは今後夏姉に対して警戒心を持っていただろう。
「夏姉、ごめん」
夏姉の心遣いにボクは素直に頭を下げる。
「感謝する必要はないわよ悟」
と、ここで夏姉は変な笑みを浮かべる。
何か、こう、罠にかかった獲物がもがき苦しんでいる様子を眺めている子供の様な笑み。
あれ? ボク、何か失敗した?
ボクは脳みそをフル回転させて夏姉の真意を測ってみる。
「ああ、そうそう悟。1つ忠告しておくけど」
夏姉はそう前置きした後。
「進は何も考えず、本能で生きているだけよ。考えるだけこちらが損するわ」
「え?」
夏姉の言葉の意味が分からず、硬直するボクだけど、すぐに理解する。
「……ずっと考えていたんだが」
難しい顔をしていたバカ兄貴は突然パッと顔を上げて。
「バナナは何故おやつに含まれるのだろうか?」
「そんなこと知らんわ!」
「ぐあ!?」
バカ兄貴の言葉にボクは思わず台拭きを投げ付けた。
……バカ兄貴、もしかしてずっとそんな下らないことを考えていたの?
もしそうだったら今まで悩んでいた時間を返せ。
おかげでボクは廊下に立たされたんだぞ!
「アッハッハ! やっぱりこの空気が最高よ」
夏姉が心底嬉しそうに笑う表情が印象に残った。




