悟の気持ち
今更ですが昨日は実習が休みで、今日はバイトが休みだったため2日連続で投稿することが出来ました。
時々考える。
バカ兄貴にとってボクは何の存在なのだろうか?
愛すべき家族?
口うるさい義妹?
それとも使い勝手の良い道具?
それら3つ、全てに当てはまる態度を取ってくるバカ兄貴――いや、風倉進。
誤解しないでほしいのだけど、ボクは道具としてでしか見てなくとも構わない。
ショックは受けるけど、それならそれなりの対応を取るだけ。
もちろんバカ兄貴を追い出したりはしないし、家の雰囲気を悪くしない。
だから、教えて欲しいバカ兄貴。
風倉進はボクをどう見ているのかを。
「ふうん……」
カタカタ、ピチューン。
バカ兄貴の部屋に響くのはゲームの音だけ。
迫力のあるエフェクトが何度も登場し、臨場感あるBGMが鳴り響いているけど、残念ながらこの空気を払拭させることはできていなかった。
「で、どう思う進義兄さん」
「進義兄さんか……」
ボクの言い様に風倉進はクツクツと喉を鳴らす。
「そう呼ばれたのは何時以来だろうな?」
「進義兄さんが私に呼称を“ボク”と固定した時から」
あの時のことはよく覚えている。
3年前。
まだ私と進義兄さんが離れて住んでいた中学2年生の時、変な本に被れた進義兄さんは私に対しそう命令してきた。
もちろん私は断ったが、進義兄さんが余りに煩いから妥協案としてバカ兄貴と呼ぶことを引き換えに了承。
飽きっぽい進義兄さんのことだから、すぐに終わると思ったけどその予想は外れ、今まで続いていた。
「まだ取引は継続中だぞ」
「じゃあ、答えて」
進義兄さんの言葉に私は被せるように続ける。
「進義兄さんにとって私は何なのか? 一体どういう存在なのか教えて」
「知ってどうするつもりだ?」
「別に、何も変わらない……けど」
少なくとも私は安心する。
つい最近までは何ともなかったのに。
ここ数日、進義兄さんの言動に心を乱されっぱなしだ。
こんなふらふらしている私は私じゃない。
いつもの私を取り戻すために、進義兄さんには絶対に答えて欲しい。
「嫌だと言ったら?」
「金輪際進義兄さんとは口をきかない。そして、私が進義兄さんのどちらかが家を出ていくこと」
「ハハハ、それは笑い事じゃないなあ」
「笑いごとで済まなくしたのは進義兄さんだよ」
あくまで原因は進義兄さん。
進義兄さんが最初から態度をハッキリしてくればこんなに悩む必要はなかったのに。
「俺が悟をどう見ているか。残念ながら俺は答えることはできない」
「っ、なら!」
「落ち着け悟。だがな、ヒントは与えることは出来る」
そう言葉を紡いだ進義兄さんはゲームを止め、私を見る。
線の細い面立ちに、綺麗な瞳。
学校中の女子を魅了してやまない進義兄さんが真っ直ぐ私を見据える。
「悟、俺にキスをしてみろ」
「はあ!?」
進義兄さんの突然の提案に私は思わず声を上げる。
「馬鹿言わないでよ義兄さん、そんなこと――」
「良いからやってみろ」
進義兄さんは私の言葉を封じる。
「親愛、冗談、おふざけ、恋慕……どんな感情でも良い。俺に口付けをしてみろ」
「う……」
進義兄さんの命令に私は硬直する。
私が進義兄さんとキス?
一体何故?
どうして私がそんなことをしなくちゃならないの?
「……」
混乱の極地にいる私を知ってか知らずか進義兄さんは身じろぎ1つしない。
普段のお茶らけた態度とは一線を画す真摯な表情。
なるほど、これは学校中の女子が夢中になると私は心の隅で感嘆する。
「……」
そんなに見つめないでほしい。
気が散ってしまう。
なあに、簡単なこと。
たった1秒、数瞬で終わる出来事。
犬に噛まれたようなもの。
終わった後はすぐに唇を洗い、記憶を消去すれば問題なし。
「……」
問題はない……はずなのに。
動かない。
体が動かない。
どれだけ脳が必死に命令しても、体は応えようとしない。
何故?
何で?
どうして私は動こうとしないの?
「……悟」
自分が真っ二つに分かれた感触に戸惑っていた私を見かねたのか進義兄さんは口を開く。
「――」
「っ!!」
そこから先の記憶が酷くあやふやだ。
何がどうなったのか、進義兄さんが何を言ったのか、その程度の記憶さえ思い出せない。
けれど、ただ1つ言えることがある。
それは……私は進義兄さんの前から尻尾を巻いて無様に逃げ出したことだった。




