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心に吹く風  作者: イレ
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ひみつ〜

忘れもしないこの11月12日。ライがうちにきて、いや、


私に造られてちょうど一年が経ったのだ。


「ライ」私は彼にそう名前をつけた。


彼と目が合った時から、すぐに浮かんだ名前だった。


だが私は、一度も彼を、彼を目の前にし「ライ」と呼んだことがない。


つまり声としてその名を発したことがなく、心の中で私が勝手に呼んでいる名なのだ。


それは不思議でもなんでもなかった。私の心がきっとそうさせているのだろう。


花壇に出て花に水をやり、その後いつものようにライを見送る。


ほとんど一年このような生活が続いている。錆て痛々しいジョウロに水をくむ。


幸い穴は、あいていないがあと何年もつか分からない。


そのジョウロから、水が滑り落ちていく。


太陽が反射し綺麗な水の流れと錆をまとったジョウロとでは、


どうも似合わないものがあった。花達は、朝一番の食事に満足そうに見える。


ドアがギギギィと開いて合図をした。私は、振り返る。


「いつもの所に行ってくるからな。」


急いでいるのか投げやりだ。ライの言葉と両足が同じスピードで駆けていった。


私が初めてライを外に連れていったあの場所、「草原の丘」にいくのだろう。


あの様子だとすっかり気にいっているようだ。


「分かりました。今日は早めに帰って来て下さいね。」


小さくなるライに手を振る。振り返ることもなく、


スタートしたペースを乱すことなく走っている。


はたして、私の声は届いたのだろうか。


さっきの続きで家のすぐ左隣にあるおよそ縦横4メートル×5メートル程の花壇へ向かう。


白、黄色、ピンクの花を左手一杯になるだけ摘む。


花壇の上の辺りに位置する色とりどりの花に囲まれ、


ポツンとたたずむ大きな石の前にしゃがみ込む。


この大きな灰色の冷たい石を見るたびに、居た堪らない気持ちになる。


さっき摘んだ黄色のパンジーと白、ピンクの百合を備え両手を合わせる。


そして、石碑をあとにした。


そしてまた花を摘み今度はカゴに入るだけ花つめた。


フランスパンが3本入るくらいの木材のバスケットに。


それを持って森を下りてまちへ向かう。


1時間程歩いた頃、オシャレな服をおしゃれに着こなした住民達で賑わっていた。


赤と白のレンガ造りの家々が並んでいる。


道路沿いには、敷物を広げ靴、ナイフ、本などの雑貨を売っている店。


左隣は、野菜を売っている老婆の出店がある。私は雑貨屋の右隣に座ることにした。


ジョウロはいつ頃から錆たのだろう。


そんな、くだらない事を考えつつ、買い手が現れるのを売られていく花と共に待ち続ける。


ちょうど左隣の雑貨屋の古い本が売れていってた。


彼はあまりに人間に似すぎている。


そのために、私は少々の不安を抱えていた。彼は、とても賢かった。


自分がロボットだということも理解していた。知識も、学習力も私に劣らなかった。


私は彼が完成して3日目の朝嘘をついた。


「お前には、心がないのです。これ位の穴が開いていて、残念なことに、


 気持ちを持つことが出来ず落っことしてまうのです。

 

 もしお前がどうしても心が欲しいと言うのなら自分で探してきなさい。」


大嘘だった。あまりに、人間に似すぎている彼には心が確かにあった。


調べてみたら感情のデータも諸々インプットされていた。怖かった。


気付いて欲しくなかった。悲しみや痛みを彼には知って欲しくなかった。


私のように彼がもし、悲しさを知ってしまった時は消去してしまえばいいと思っている。


摘んだ色とりどりの花が少し売れ残ってしまったが、家に帰った。


それから、1時間後「ただいま。」日がギリギリ沈まないまだ明るいころだった。


ギギギとドアが鳴った。ライが帰ってきたようだ。


「うわっなんだこれ。」


テーブルの上のイチゴが載ったケーキに目が向けられていた。でもあれは、私が食べる文だ。


だって、ライには食事なんて勿論必要ない。外聞き悪いが、形だけ誕生日ということだ。


「今日はお前の誕生日パーティーです。1歳おめでとうございます。」


見た目は5歳だが年齢は1歳。矛盾しているがこれが事実、なんか笑える。


ケーキにろうそく一本たてて火を灯す、ろうそくは命が宿ったように火をちらつかす。


ライがフゥっと息をはく。火は一瞬にして白い煙と匂いになって飛び立った。


プレゼントにくさみどりいろの飛行機をプレゼントした。


ライは「こんなのいらない。」と顔を横にそっぽを向いた。ライは素直じゃない。


前々から欲しがっていたくせに。

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