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心に吹く風  作者: イレ
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最終点

木製の作りで花が彫刻されている写真立てを、ゆっくりと立て直す。部屋の中は、


静かで異様な空気が漂っている。俺の手により写真が起き上がって現れる。その時の瞬間を、


姿を、閉じ込めて表情も色も時空を超えて一枚の映像としてそれは写し出されていた。


そこには、2人の人物が写っていたのだ。俺ともう1人の2人。


その人物の顔はよく見たことのある奴の面影があった。


アイツ顔に違いない。緑の瞳、栗色の髪の色。彼の若い頃の姿、容姿だと見て分かった。


2人とも幸せそうに笑っていた。こうして見ると隣り合った2人の笑顔は、とても似ていた。


でもこの写真を見て疑問が横切った。訳が分からない。こんな写真、写した覚えがなかった。


だから、そこに写っている自分は不自然なのだ。じゃあ、そこに写っている奴は誰なんだ?


疑問が頭の中でいったりきたりしている。もしかして…が沢山よぎっていく。


もとのように写真立てを伏せる。これは本来、伏せてあるべきものだった。


少し立ちすくんだ後、彼の部屋を後にする。そしてしばらくして、


ドアの外から寒そうに両手を擦って彼が帰って来た。俺を見るなり、


「ライ。そろそろ眠りなさい。」


と言った。寒そうに両手を擦りながら。


ライ、今日から俺はライだった。馴れないので不思議な感じがする。


時計の針は9時を指している。起き続けていたら電力を消費するので体に悪いのだ。


「1つお願いがあるんだけど…。明日も、明後日も俺をちゃんと起こしてくれないか。


電源入れてくれよな。」


不安だった。俺には明日が無い気がして…。言わなければならない言葉…な気がした。


彼は、テーブルに置かれている皿を片付けていながら、


「大丈夫ですよ。ちゃんと起こしますよ。」


と、笑って言った。とても穏やかに。その表情には、一切嘘など含まれていない様に。


「おやすみなさい。」






また、ちゃんと彼は俺をおはようございますと迎えてくれた。


それが、果たして誕生日の次の日なのかは、分からなかった。


だが、意識がある。それだけでも十分だと思った。


それから、アミンの所へ行き自分の名前を教えた。彼女が俺の名前を覚えて、


呼んでくれたらいいと思った。


あの草原が好きな理由はもう一つある。あの場所だけ季節が止まっている所だ。


秋だろうと冬だろうと、ずっとその場所だけ時間が止まった様に茂って、


緑一帯のままなのだ。だから、今でもまるで夏のような涼しげな風が草木を撫でている。


それから、幾つもの日々を送った。その日々のどれもを彼はきちんと


約束を守ってくれているのか、過ごさせてくれた。


だが俺はまだ、彼の名前も誕生日も何一つ分からなかった。


だからこれから少しずつ教えてもらおうと思う。



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