59.
あれから五年が経ち、エメリーネも二十二歳となった。オディロンと結婚して四年、今は三人目の子を宿している。
前の人生では自ら命を絶った年であるのに、今生では新しい命が生まれようとしている事実に不思議な気分だった。といっても、予定はまだ先である。
悔しいことに、五年前、オディロンに補佐官を推薦してもらおうとしたときに彼が言った言葉は、すべて現実となっていた。
そしてオディロンと結婚し、第一子を授かったのをきっかけに、エメリーネの不思議な力は消えていた。感情が色によって見えるというあの力だ。
だがもう、あの力は必要ない。
ガレッティ国では、誰もが笑顔で暮らせるようになっているからだ。
今でもエメリーネは「あの力はなんだったのだろう」「どうして、もう一度、人生をやり直しているのだろう」と思うときもあるが、きっとテレジア神の力によるものなのだと、勝手に納得していた。
「とうさま~、かあさま~」
三歳になった息子は、ベルジュ公爵邸の花で溢れる庭園を元気に走り回っている。
オディロンと結婚したエメリーネは、住まいをベルジュ公爵邸に移し、そこからオディロンと共に王城へと通っている。
エメリーネの婚約が整った後から、父王は精力的に政務をこなし、それを宰相となったラモン伯爵が積極的に支えていた。
そしてエメリーネが結婚すると、父王は新婚の二人にベルジュ公爵邸で暮らすことを提案したのだ。つまり、蜜月である。
その蜜月が、結婚して四年経った今も終わっていないだけともいう。つまりオディロンが王城へ住まいを移すのを嫌がっているのだ。
今のところ、こちらで暮らしていても不便はないため、エメリーネは何も言わないが。
「うぇ~ん、うぇ~ん、に~に~、ま~ま~、どこ~、ぱ~ぱ~」
突然、一歳の娘の泣き声が聞こえ、エメリーネが慌てて立ち上がると、左手につけている腕輪が、しゃらりと揺れた。だがすぐにオディロンが「俺が行く」と制する。
エメリーネが「でも」と言いかけるが、オディロンはそっと耳元でささやく。
「母親によく似た娘のようだ。二十年前を思い出すな」
それはエメリーネもまた、幼いときにこの庭園で迷子になって泣いていたからだ。
「相変わらず、あなたって意地悪ね。どうしてそういうことばかり覚えているの?」
「それは、相手が君だからだろうな」
エメリーネのこめかみにちゅっとキスを落としたオディロンは、花が咲き誇る庭で迷子になり、泣き叫ぶ娘を助けに向かったのだった。
【完】
書きたくなって書いてみた、死に戻りもの&王道ロマンスファンタジー。
最後までお読みいただきありがとうございました。
気付いているかどうかわかりませんが、私のお気に入りはアルマスたんです。
普通にしてればイケオジに入るだろうに、執着心強すぎてキモオジになりました。
そして今回は、ヒーロー視点をいっさい書いていないという。
機会があったら書きたいなぁ。と、そんな感じです。
それでは。
澤谷




