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いつもお読みいただきありがとうございます。
新連載です、なのですが。他サイトからの転載となります。
完結投稿なので、さくさく更新されます。
王道ロマンスファンタジーが書きたくなって書いた作品です。
ゴォオオ――!
悪魔の咆哮のような炎が白亜の王城を呑み込む。
「悪女エメリーネを討てぇ――!」
「この国を滅ぼした悪魔め!」
遠くで響く群衆の怒号と叫び声が、エメリーネの耳に突き刺さった。
(やっとここまできたのね……)
燃え盛る玉座の間、崩れ落ちる天井からは火の粉が舞う。ここが焼け落ちるのも時間の問題だろう。
エメリーネは目の前に立つ精悍な男に、感情のこもらない表情を向けた。それでも王族の証である赤い瞳は炎を宿し高潔に輝き、熱風に揺れる銀青の髪が決意を際立たせる。
「……オディロン」
その声は、炎の熱を冷ますかのように静かだ。
彼の名はオディロン・ベルジュ。若き公爵であり、王位継承権を持つ男である。エメリーネが死ねば、間違いなく彼が次の王となる。
「女王エメリーネ……」
血に濡れた剣を握る彼は、どれだけの命を奪ってきたのか。その唇も誰のものかわからぬ血で濡れていた。
「あとは、おまえだけだ」
落ち着いた声のオディロンは激情すら制御できるのだろう。
エメリーネは女王として気高く口角を上げ、高慢に言い放つ。
「アルマスもコンストも口ほどにはないのね……。残念だったわ」
オディロンの眉がわずかに動く。
エメリーネの側近だった大臣たち、そして婚約者だった男さえ、すべて彼の手に落ちた。
「もうおまえの味方は誰もいない。俺がすべてこの手で彼らの首を取った」
やはりその手にある剣が血に染められているのは、彼らの息の根を止めたからだ。その首を城門に晒し、女王エメリーネの時代は終わったと、見せしめるに違いない。
「そう……」
エメリーネは銀青のまつげを伏せ、背後の火柱が爆ぜる音を聞いた。
このまま炎に包まれて二十二年の人生に終止符を打つのも悪くはない。
エメリーネは二年前、二十歳でガレッティ国の女王に即位した。国王が崩御したため、第一継承権を持つエメリーネが女王となった。
うら若き可憐なる女王の誕生に、国はざわめいた。なによりもエメリーネは「悪女」としてその名を轟かせていたのだ。この国の将来を憂える国民が大半だったという。
女王を支えるはずの大臣たちは反対者を次々と処刑し、権力と脅しで忠誠を強いた。その結果、エメリーネの悪名はさらに広まり、人々を絶望へと追いやった。
――気に食わない者の首をすぐにはねる。
――領地を没収し路頭に迷わせる。
――奴隷にまで落とされた者もいる。
――王城は賄賂と薬物にまみれている。
いつしかそんな噂が広まっていたのだ。いや、それが噂ではなく事実。
だがそれはエメリーネが指示したことではない。エメリーネを飾りの女王として、政治の実権を握っていたのは、父親と同年代の宰相アルマス・タルボットと老獪な大臣たち。
彼らはすべての汚名をエメリーネにかぶせ、自分たちは好き勝手に振る舞っており、賄賂も薬物も彼らによるものだ。
そしてエメリーネとアルマスの強制された結婚。エメリーネが逃げないようにと、アルマスは狡猾に純潔を奪った。
絶望に打ちひしがれながらも、なんとか生きようと思っていたのは、もはや執念だった。
エメリーネは、自分が生まれたこの国を愛していた。両親と過ごした幸せな日々を、忘れられなかった。
いつからこの国は変わってしまったのだろう。王妃であった母が亡くなり、父が崩御してからは、すべてが大きく狂い出した。
国の実権は宰相と大臣たちに握られている。エメリーネがここで消えれば、国は彼らの欲望のままに荒廃し、隣国さえ巻き込むだろう。
だからエメリーネは決意した。この国を救うため、悪女の名を背負い、憎悪を一身に集めることを。いつか誰かが自分と腐敗した権力者を討ち、未来を切り開く日を信じて。
その結果、若きベルジュ公爵が反女王派の筆頭として名乗りを上げ、現王政に不満を持つ者たちをまとめてくれたのも、僥倖だった。
彼ならばきっとこの国を明るい未来へと導いてくれる。
そしてオディロンは、エメリーネが望んでいたとおり、大勢の仲間を引き連れ、反乱を起こし腐敗を一掃した。




