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第一話 異世界転生編


「――ハッピーバースデー、私」


時計の針が深夜の12時を回る。


スマホの画面に表示された日付を見て、

ユウナは小さくため息を漏らした。


今日で30歳。

ついに20代が終わってしまった。


周囲の友人は次々と結婚し、

SNSを開けば子供の写真や

マイホームの報告ばかり。


実家に帰れば「いい人はいないの?」

という親からのプレッシャー。


そんな焦りと孤独を紛らわせるように、

ユウナは毎日遅くまで残業をこなしていた。


「やっと終わった……明日はせめて、

泥のように眠ろう」


コンビニで買い込んだ缶ビールと、

ちょっと贅沢なおつまみの袋をぶら下げて、

ようやくアパートの自室に辿り着く。


鍵を開け、一歩足を踏み入れたその時だった。


「っ……あ、がっ……!?」


唐突に、胸を締め付けるような激痛が襲う。


視界がぐにゃりと歪み、

手からビールが落ちて床に転がった。


呼吸ができない。

心臓が悲鳴を上げている。


(嘘、私、ここで死ぬの……?)


自分が真面目すぎるきらいがあることは

自覚していた。


会社でも困っている同僚や

後輩の仕事のサポートをいつも買って出ていた。


もちろん自分の仕事も完璧にこなした上で、だ。


そんな風に限界まで張り詰めていた糸が、

30歳の誕生日にぷつりと切れてしまったのかもしれない。


床に倒れ込みながら、

ユウナの意識は急速に深い闇へと落ちていった。



...

...

...



「――ナ、ユーナ、朝だよ。起きて着替えよ。」


ユウナは自分が硬いベッドの上にいることに気づいた。


目の前に広がっていたのは、

見慣れたアパートの天井ではない。


石造りの壁に、古びた木製の家具。


知らない外国の子どもたちが何人か自分と同じようなベッドで寝ていたり、

寝ぼけながら起き上がろうとしていた。


目の前には、小学校低学年くらいの少女が

私に話しかけている。


(え? ここ、どこ……?)


驚いて自分の手を見ると、そこにあったのは驚くほど小さく、白い、子供の手だった。


混乱する頭で周囲の状況を把握するのに、

それから丸1ヶ月の時間を要した。



分かったことはいくつかある。


まず、自分は30歳のアラサーOLユウナから、

5歳の少女「ユーナ」に生まれ変わったこと。


自分の認識としては30歳のままだが。


次に、ここは教会に併設された孤児院であり、


もう少ししたら、

自分はとある「男爵夫妻」の養子として引き取られることが決まったばかりだということ。


そして、この世界が、

前世でユウナが夜な夜な読み漁っていた


『なろう系』の乙女ゲーム系の小説たちに

酷似しているということだ。


「これって……いわゆる、異世界転生?」


鏡に映る自分は、

ふわふわとした愛らしいピンク色の髪。


しかも、今後は「男爵令嬢」という身分になるらしい。


数多くの令嬢系小説を読んできた経験から、

ユウナはピンときた。


(この容姿に、この爵位。

これって完全に『乙女ゲームのヒロイン役』だよね……?)






しかし、決定的な問題が一つあった。


「……ランタン王国なんて読んできた小説の中にあったっけ?」


どれだけ記憶を掘り起こしても、

この国の名前に見覚えがない。


読んだことがあったとしても、

タイトルすら思い出せないレベルの

有象無象の作品の一つなのだろう。


それに、目覚めてから1ヶ月。


ユウナが肌で感じたのは、

この世界が「物語」ではなく、


血の通った「過酷な現実」だということだった。


お腹は減るし、転べば痛い。


周囲の人々は、

設定通りに動くNPCなんかではなく、

それぞれ必死に生きている人間たちだ。


(そう、ここは本の中じゃない。日常なんだ)


小説の中には「私はヒロインだから何とかなる」と高を括り、我が物顔で振る舞った結果、


悪役令嬢や周囲から凄惨な「ざまぁ」を喰らうお調子者のヒロインがよくいた。


(あんな風に胡座をかいていたら、

一瞬で足元をすくわれる。

調子に乗ったら破滅するわ……!)


前世の真面目な気質が、ユウナの背筋を正させる。


会社員時代、他人のために無理をして自滅してしまったのは反省してはいる。


けれど、困っている人を見捨てられない性分は、そう簡単には変わらない。


「でも、悪くはないかも」


ユウナは小さな自分の手を見つめ、

ふっと微笑んだ。


前世では、社会の荒波とプレッシャーに潰されて終わってしまった人生。


だけど今は、まだ5歳だ。


やり直せる。


(前世であれだけ憧れた魔法や貴族のいる世界。


今度は自分の仕事や責任に潰されないように。


5歳児からやり直せるなら、

もう少し気楽に、

この世界を前向きに楽しんでみよう!)



小さな胸に新たな決意を秘めて、

元アラサーOLの二度目の人生が幕を開ける。



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