第23話:すべては計画通り
王城・離宮。
人目の少ない一室。
そこに、リリアーナはいた。
「……これで、すべて整ったわね」
静かに呟く。
その声には、揺らぎがない。
コンコン、と軽いノック。
「入って」
短く告げる。
扉が開き、あの青年が入ってきた。
「呼んだか」
「ええ」
リリアーナは、ゆっくりと振り返る。
「ちょうどいいタイミングだわ」
「……終わったのか」
その問いに。
リリアーナは、わずかに微笑んだ。
「ほとんどは」
曖昧な答え。
だが、その意味は明確だった。
「……やっぱりな」
青年は、小さく息を吐く。
「最初から、全部仕組んでたんだろ」
その言葉に。
リリアーナは、少しだけ考える素振りを見せた。
そして――
「ええ」
と、あっさり認めた。
「最初から、すべて」
その言葉に、青年は苦笑する。
「恐ろしいな」
「今さらです」
軽く返す。
「……で?」
青年は腕を組む。
「どこまでが“計画通り”なんだ」
その問いに。
リリアーナは、窓の外へと視線を向けた。
遠くに見える王都。
そのすべてを見渡すように。
「全部よ」
静かに、言い切る。
「まず、婚約破棄」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「あの場での断罪は、必須だった」
「……自分から破滅に向かったのか」
「ええ」
迷いなく頷く。
「そうしないと、“流れ”が変わらない」
その言葉に、青年は眉をひそめる。
「流れ、ね」
「一度目は、それで終わった」
淡々と語る。
「だから、同じ状況を再現した」
「……再現」
「ええ」
リリアーナは振り返る。
「同じ舞台、同じ登場人物」
「ただし――」
わずかに、目を細める。
「結末だけを変えるために」
その言葉には、確かな意志があった。
「聖女についても同じ」
続ける。
「あの子は、必ず力に溺れる」
「……だから、誘導したのか」
「ええ」
即答。
「“使えなくなる状況”を先に作った」
「焦れば、必ず無理をする」
「そして――」
一拍。
「自滅する」
すべては、予測通り。
いや――
「予定通り」
その一言で、すべてが繋がる。
「王太子も同じ」
リリアーナの声は、淡々としている。
「彼は、選択を誤る」
「自分に都合のいいものを選び続ける」
「だから」
少しだけ、口元が緩む。
「選ばせた」
「……お前が?」
「ええ」
「選択肢は与えたわ」
「ただし――」
わずかに間を置く。
「最も間違えやすい形で」
青年は、言葉を失う。
「……そこまでやるか」
「必要だったので」
一切の迷いがない。
「そして、最後」
リリアーナは、ゆっくりと息を吐く。
「すべてが崩れた後」
「残るのは――」
静かに、告げる。
「私だけ」
その言葉に、部屋が静まり返る。
「……それが、お前の望みか」
青年の問い。
リリアーナは、少しだけ視線を落とした。
「いいえ」
静かな否定。
「望みは、もっと単純よ」
そして。
ゆっくりと顔を上げる。
「もう一度、失わないこと」
その言葉には。
これまでとは違う、わずかな感情が混じっていた。
「……なるほどな」
青年は、小さく頷く。
「だから、やり直した」
「ええ」
「そのためなら、何でもする」
迷いのない答え。
「……怖い女だ」
「よく言われるわ」
軽く笑う。
だが、その瞳は笑っていない。
「で、これからどうする」
青年が問う。
「もう、終わりだろ」
その言葉に。
リリアーナは、ゆっくりと首を振った。
「いいえ」
静かな否定。
「まだよ」
「……まだ?」
「ええ」
わずかに微笑む。
「最後の仕上げが残っている」
その言葉に。
青年は、嫌な予感を覚えた。
「……誰だ」
短く問う。
リリアーナは、ほんの一瞬だけ沈黙し――
「――すべてを終わらせる相手よ」
と、答えた。
その意味を、すぐに理解する。
「……まさか」
青年の顔が、わずかに強張る。
だが。
リリアーナは、何も言わない。
ただ。
静かに、微笑むだけだった。
(すべては、計画通り)
その言葉が、心の中で響く。
ここまで来た。
あと、少し。
本当の意味で――
すべてを終わらせるために。
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次回、ついに最終局面へ――すべてが終わります。




