第21話:繰り返された結末
夜。
王城の廊下は、静まり返っていた。
灯りは最小限。
足音だけが、規則正しく響く。
リリアーナは、ひとり歩いていた。
迷いのない足取り。
向かう先は――
あの場所。
扉の前で、足を止める。
「……また来ることになるなんて」
小さく呟く。
その声には、わずかな苦笑が混じっていた。
ゆっくりと扉を開ける。
中は、以前と変わらない。
薄暗く、静かな空間。
そして――
砕けた水晶の欠片。
「……」
それを見下ろしながら、リリアーナは静かに息を吐いた。
(前は、ここで止まった)
記憶が、よみがえる。
断罪。
追放。
そして――
“その先”。
「……全部、失った」
ぽつりと、言葉が零れる。
あの時は、何もできなかった。
流れに逆らえず。
ただ、終わりを迎えた。
(だから――)
視線が、ゆっくりと上がる。
「やり直した」
その言葉は、静かだった。
だが。
確かな重みがあった。
「一度目は、失敗」
「二度目は――」
わずかに、口元が緩む。
「成功させる」
その瞳には、揺るぎない意思が宿っていた。
(もう、同じ結末にはしない)
そのために。
どれだけ手を汚してもいい。
「……そう決めた」
静かな覚悟。
その時。
「……やはり、ここにいたか」
背後から、声がした。
振り返ると、あの青年が立っている。
「ええ」
リリアーナは、特に驚く様子もなく答えた。
「少し、確認を」
「確認?」
青年は、室内を見回す。
砕けた水晶。
異様な空気。
「……あれは、お前がやったのか」
「ええ」
あっさりと肯定する。
「必要だったので」
「必要、ね」
青年は、ため息をつく。
「ずいぶんと大胆だな」
「慎重にやっても、意味がありませんから」
淡々とした返答。
「……お前は」
青年は、少しだけ目を細める。
「何を知っている」
その問いは、以前よりも踏み込んでいた。
沈黙。
数秒の間。
やがて――
「少しだけ、未来を」
リリアーナは、そう答えた。
「……未来?」
「ええ」
「すべてではありませんが」
視線を落とす。
「一度、経験した未来です」
その言葉に。
青年の表情が、わずかに変わる。
「……それが、本当なら」
「ええ」
リリアーナは、静かに頷く。
「だからこそ、間違えません」
「……なるほどな」
青年は、小さく息を吐いた。
「それで、あそこまでやるのか」
「あそこまで?」
「聖女も、王太子も」
その言葉に。
リリアーナは、ほんの少しだけ考える素振りを見せた。
そして。
「……足りないくらいです」
と、答えた。
その一言は、静かで。
そして――
重かった。
「……怖いな」
青年が、ぽつりと呟く。
「今さらです」
リリアーナは、わずかに笑う。
「もう、戻るつもりはありませんから」
その言葉に、迷いはなかった。
部屋を出る。
扉が閉まり、再び静寂が戻る。
リリアーナは、そのまま歩き出す。
(次は――)
頭の中で、次の手順を整理する。
すでに、終盤。
だが。
まだ終わっていない。
「……あと少し」
小さく呟く。
その声には、確かな確信があった。
(最後まで、やりきる)
それが、自分の役目。
そして――
「今度こそ」
わずかに目を細める。
「すべてを手に入れる」
その言葉は、静かに夜へと溶けていった。
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次回、王太子に“決定的な真実”が突きつけられます。




