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アンドロイドL01i(仮題)  作者: Alan Ingres


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第15回

アンドロイド関連法規(Android Regulatory Framework)

アンドロイド関連法規は、各自治体および連邦レベルで制定されているアンドロイドの行動・運用に関する法体系の総称である。アンドロイドの社会的普及に伴い、人間社会との調和、安全性、責任の所在を明確化する目的で整備が進められた。


① 所有者随伴義務

アンドロイドは、登録された所有者または管理責任者の随伴なしに屋外で活動することを禁じられている。この規定は、無断行動による事故防止や、所有権・責任の明確化を目的として導入されたものである。例外として、自治体が許可した業務用アンドロイドや、特定の公共サービスに従事する機体には限定的な単独行動が認められる。


② 個体識別信号(AIS)

すべてのアンドロイドは、人間のIDカードに相当する個体識別信号(Android Identification Signal, AIS)を常時発信している。AISには機体番号、製造元、機種、稼働状態などの基本情報が含まれ、周囲のアンドロイドはこれを受信することで互いの存在を即座に把握できる。AISはアンドロイド同士の協調動作、衝突回避、ネットワーク管理などに利用されるほか、法的には「個体識別のための最低限の発信義務」として位置づけられている。


— 『人造生命体管理基本法注解(Commentary on the Fundamental Act for Synthetic Beings)第3版』より引用




 テイラピッズ・トレイルの中は徹底して「自然」だけが存在している。それがむしろ極めて人工的な雰囲気を醸し出しているような気が、ぼくにはしていた。草の生い茂る中をうねうねと続いている山道はむろん舗装されていないし、道標すらひとつもない。ときどき丈の高い植物や灌木によって視界が遮られることもあるし、目を引く草花や木々の隙間からちらりと見える風景に気をとられることもある。それでも、どういうわけか、うまい具合に進路を見失うことなく、進むことができるのだ。そして、ちょうど疲れてきたな、というところで休憩するための小さな建物が目の前に現れる。

「テイラピッズ・トレイルを設計したグループのリーダーは、人間工学と心理学両方の学位をもっていたの」

 休憩所のテラスには、ぼくとディアナ、それに隅のテーブルに座っていた女性がひとりだけだった。

「みんな、お釈迦様の掌の上ってわけか」

 ディアナは首をかしげると、両手をふとももの間に差し込み、ぼくを見た。。ぼくの出来の悪い冗談やたとえ話を聞いたときの、彼女の癖だった。ぼくはなんでもないというふうに首を振り、テーブルの上の業務用DICEに話しかけた。

「ビールをくれ」

「サイズはいかがしますか?」

「500mL。グラスは2つ」

「かしこまりました」

「ねえ」

 ディアナが手を伸ばしてぼくの手の甲に触れた。

「なんだい?」

「あれ…あの席の…」

 ディアナの視線を追うと、それは先客の女性だった。クリーム色のサファリハットと黒のサングラスで顔はよく見えない。カーキ色の長袖シャツとパンツ姿の、ほっそりとした体形で、テーブルに置いたタブレットを操作していた。

「あの人が、どうかした?」

「あれ…人じゃないわ。アンドロイドよ」

 ぼくは少しからだを起こして周りを見回した。テラスにはたしかにぼくたちと「彼女」しかいなかった。

「ここに来るとき、休憩所の中を通ってきたけど、誰もいなかったでしょ?」

「そうだね」

 休憩所とテラスをつなぐ出入り口は一つだけで、テラスは腰くらいまでの柵で囲われていた。外側は雑木林で、基本的に立ち入り禁止のエリアだった。テイラピッズ・トレイルでは、指定された道やエリア以外、一般客が入ることはできないのだ。

「ここの、休憩所のアンドロイドなんじゃないかな」

「何をしてるの?」

「休憩時間なんだろ」

「それならドックに行くでしょ」

 ディアナは、周囲を見回した。プラチナブロンドの髪がふわりと広がり、彼女の甘い「体臭」が辺りに拡散された。

(次のメンテナンスで、別の香りも試してみようかな)

 ぼくはふとそんなことを思いながら、彼女を真似るように、テラスの中をぐるりと見回してみた。テラスには、あいかわらず、ぼくとディアナ、そして「彼女」だけのようだった。

「どれかのテーブルの下に、彼女のオーナーがいたりしてね」

 ディアナはまた、「彼女」の方に目を向けた。

「『あれ』はIEI製じゃないみたい」

「へえ?見分けがつくのかい?」

「AISで分かるの」

「オーナーの情報も分からないかい?」

 ディアナは首を振った。

「人間に関する情報はプライバシーがあるから」

「そりゃそうか」

 ぼくたちがあまりじろじろ見ていたからか、「彼女」はタブレットから顔を上げた。それから少し右手を上げ、かすかに笑った、ように見えた。そのとき、ぼくは「彼女」のことを思い出した。

「彼女のオーナーを思い出したよ」

 ときどき、アンドロイドはやりすぎることがある。たとえば、今みたいなとき、人間の男は女の子をびっくりさせたいものだ。こういうときは、小首をかしげて、「だれ?」って言ってもらいたいんだ。しかし、ディアナのCPUは瞬時に解を導いてしまった。

「トミー・カルメンね」

 ぼくはためいきをついた。そのとき、休憩所から店員がやってきて、注文したビールとグラスを二つ、ぼくたちのテーブルに置いていった。


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