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第100話 メトロポリスより愛を込めて

 エリックと劉たちによって放たれたロケット弾の直撃によって執政院のビル最上階が大爆発を起こす。爆発の影響で最上階に設置された時空転移装置は炎に包まれ、ヘンリーの遺体と共に灰塵に帰した。


 最上階が吹き飛んだと同時に執政院のビル上空に出来た光の球体もまた膨張を止めた。やがて光の球体は下から徐々に崩れ始め、メトロポリス全体に雨のように光の粒が降り注ぎ出した。


 エリック、劉、紫蘭を含めたマフィア連合軍及びメトロポリス執政院の評議員たちもこの光景を呆然と眺めている。それだけではない。アップタウン、更にはハリーたちが住んでいるダウンタウンの人間たちも空を見上げて光の雨を眺めていた。


 人によってはロマンチックに見えるのか、はたまた吉凶の現れと見るのか。様々な感想が出る中、多くの人々が光の雨を見ようと建物から外へと出てくる。


 この光景を見てエリックと劉は腰をペタンと抜かして言葉を失っていた。一方で紫蘭は光の粒を手に受けて、一人「何て美しい…」と呟いていた。



 ………………



(ハリー…ハリー…)



 聞き慣れた声に気づいたハリーがゆっくりと目を開けた。目の前には一匹の黒猫が居り、心配そうにハリーの顔を覗き込んでいた。



「トント…」


(ハリー、大丈夫か!?)


「ああ。体のあちこちから痛みが出ているが、何とか生きてはいるみたいだ」



 ハリーが頭を起こして辺りを見回すと、そこは執政院の会議場横にあるバルコニーだった。ちょうどハリーが最上階から飛び降りた真下にこのバルコニーがあった。怪我こそしたものの命綱を付けていたことが幸いして落下速度が押さえられ、何とか命だけは助かった。命綱は爆発で焼け落ちたが、かろうじてバルコニーに着くまでは持ってくれたようだ。


 ハリーはフーッと深呼吸すると空を見上げた。先程までいた最上階からは激しい炎と煙が上がっている。そして空からは光の雨がハリーとトントに降り注いでいた。上空の光景を見たハリーが目を細める。一方でトントは目の前に落ちてきた光の粒をじっと眺めた。



「…終わった、ってことかな?」


(たぶんな。上空の光の球体が無くなって粒が降ってきている)


「みたいだな…まるで雪のようだ」



 ハリーは紫蘭と同じように光の粒を掌に受ける。光の粒はすぐに砕け、儚く消えてしまった。これを見て何か思い出したのかハリーは懐の手帳から一枚の写真を取り出した。



(ハリー…それって!?)


「ああ、マリアの写真だ。今思い出したんだ。彼女と出会ったのもこの光の粒のような粉雪が降り注いだ日だったって…」



 ハリーはマリアの微笑む写真を見て、一人涙を浮かべた。そしてすぐに目元を拭うとマリアの写真をビリビリに破り、光の雨が降り注ぐ空に向かって放り投げる。マリアの写真の残骸は風に乗って散り散りになって飛んでいってしまった。

 ハリーの行為にトントが驚愕して顔を覗き込むが、ハリーの表情は何処か晴れやかで憑き物が落ちたようだった。



(いいのか?お前さんにとって一番宝物のはずなのに…)


「これでいいんだ、トント。死んだ人間はもう帰らない。それに思い出は美しいままがいい。俺の中で何かがようやく終わったんだ…」


(ハリー…)


「帰ろうトント。俺たちの家へ」



 ハリーはトントを優しく撫でると再びメトロポリスに降る光の雨を眺めた。



 …………………



 一連のマフィア連合軍と執政院側の抗争で多くの犠牲が出た。当然マスコミが大騒ぎして記事を書き立てたが、執政院側の圧力によって真相のほとんどが封じられることとなった。

 執政議長であったヘンリー・ダマスカスの失脚による評議会内の混乱で予定されていた五輪(オリンピック)と万国博覧会の開催は急きょ延期となり、計画そのものが見直されることとなった。評議員たちも今回の件についてはタブーとして公に語ることはしなかった。


 マフィア側も五大ファミリーの指導者や幹部、構成員の大半を失ったことで大幅な弱体化を余儀なくされた。縄張りのパワーバランスが崩れたことによる下部組織やギャング同士の権力争いが懸念されたが、生き残ったエリックと劉による二大体制で何とか治安の更なる悪化は押さえられた。


 劉は怪我の影響で程なく引退し、跡目は紫蘭が継いだ。エリックは体の障害こそ残ったものの、ドンの跡を継いでモルトシオネを再興することとなった。


 ヘンリー・ダマスカスが進めていた物質転移の法則も肝心の時空転移装置が破壊されたことで、立証が出来なくなり時が過ぎるにつれて忘れ去られていった。更に装置の要となる素粒子が光の雨となって完全に失われてしまったことで結局この研究自体も永久に凍結された。


 ハリーは…あの抗争の後で警察に拘束されたが、蔡一門の口利きで釈放され元のダウンタウンへと帰っていった。そして今回の一件について他言しないこととマフィアや執政院といった権力側との繋がりを断つことで身の安全の保証を約束させた。



「帰ってきたな…随分長いこと旅に出ていた気がする…」



 アパートの一室に帰ったハリーが雑然とした部屋の中を見て感慨深そうに呟く。トントは部屋の真ん中に置かれたソファに寝転び、欠伸をした。



(やっぱり我が家はいい)


「そうだな…俺たちにとっては此処が一番の場所だ」



 ハリーは気持ち良さそうに眠るトントの横に腰掛けると溜まりに溜まった新聞紙をテーブルに広げた。一日分ずつ目を通していく中で、ハリーはふと外に目を向けた。アパートの窓の向こうに何か目映い光が見えた気がする。何処か既視感を覚えたハリーだが、疲れによる気のせいだろうとして再び新聞紙に目を通すことにした。


 と、その時アパートのチャイムが鳴る。ハリーは気だるそうに「休業日だ」と来客へ伝えようとドアを開ける。が次の瞬間、ハリーは言葉を失った。目の前にいたのは此処にいるはずのない女性だったからだ。


 女性は綺麗なストレートの黒髪で目鼻立ちの整った美人で何処かエキゾチックで高貴な雰囲気を漂わせていた。そして女性は固まっているハリーを見て、どや顔でこう呟いた。



「とある恩人を探しているの。ちょっといいかしら?探偵さん」



 笑みを浮かべる女性の姿に生唾を飲んだハリーは話を聞くために部屋の奥へと女性をエスコートした。


 ~~~~~THE END~~~~~

これにて本編は完結です。

拙作ながら最後までご一読いただき、ありがとうございました。

別途後日談や外伝的なものを書いたりしていく予定です。

またよろしくお願いします。

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