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oath kingdom  作者: にひけそい
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英雄の一太刀


 最下空域まで送ってやる、と。確かにそう言ったラビンについて、二人は現在彼の乗ってきた飛空艇の内部に入っていた。

 ラビンの乗ってきた飛空艇の内部には、商船を偽っているくせに、商品らしいものが何一つとしておかれていない。


 「誤魔化す気あんのか、これ?」

 「おたくらの空域でもし、審問されたら中身見るまでもなく終わりだからな。誤魔化すのは遠目だけ、近づかれたら逃げる為に積荷は減らしてんだよ」

 「開き直ってるね」


 暫く無言になり、一行は奥へと進み続ける。広いくせに物の置かれていない部屋というのはやたらと音が響く。薄暗い艇内は等間隔に並べられたランタン以外の灯りがない事もあって、トンネルのような物を思わせた。

 歩いている最中、ラビンが口を開く。


 「俺はエインに送れと言われたからお前らを送る、だが、先に聞いておくぜ。本当に行く気なんだな?」

 「いきなりどうしたんだ?」


 突然真剣な声になった、ラビンが尋ねる。兎の顔では表情までは分からないが、これまでのような気のいいおっさんといった具合では無い。


 「お前らは知らんかもしれんが、イルタミスには三つ、最下空域に至る道がある。一つはさっきの最終降下場、まあ、国によって整備された一番安全なルートだ。んで、二つ目が移動する雲の滝、《クラウドフォールン》によって船ごと無理矢理落としてもらうこと、そして最後の三つ目がこいつだ」


 それは白い布のようなもので覆い隠されていた。ロープで固定され、厳重に保管されたそれは、布越しでも少しわかる形からして、乗り物だろうか。

 そして、ラビンがロープを解かれたそれのベールを勢いよく剥ぎ取る。


 「こいつは《エアバイク》、エインの馬鹿が一人で好きな時に最下空域まで行きたいからといって俺に無理矢理作らせたもんだ」


 そこにあったのはシルバーの装甲で覆われ、その隙間から内部構造を覗かせる、排気筒のついた一人乗りの二輪車であった。

 

 「通常、空の下にある雲海を飛空艇では通り抜けられねえ。あの忌々しい質量のある雲のせいでな」

 「確か、魔力を持たない物質にのみ反応するんだっけ?」

 「ああ、だから、人間だけなら通り抜けられるが、大部分に魔力の宿らない飛空艇じゃ通り抜けるのは不可能だ。そこでエインはレオン、お前の能力に発想を得た」

 「僕?」

 「そうだ、お前さんの《強化》を船の表面だけじゃなく、内部にまで走らせて物質全てに魔力を宿せば通り抜けられるんじゃねえかってな。んで、完成したのがこの欠陥品だ」

 「あ?欠陥品?」


 口を挟んだのはティガだ。

 まあ、己の命を預ける事になるかもしれない物を欠陥品だと言われたら当然だろうが。


 「おう、エインは乗って実際に何度も最下空域まで行ったらしいが、俺は少なくともあんま乗りたいとは思わねえな」

 「何か不都合な点でもあんのか?」

 「ああ、酔うんだよ」

 「酔う?酒にか?」

 「まあ、酒を飲む訳じゃねえから、実際には違うが、感覚的には似たようなもんだ。エインが言うには、魔法使いってのは生まれながらに自分の行動に関するあらゆる物を魔力で強化してるから、乗り物に酔うことは無いんだが、このバイクが常に魔力を要求するせいで強化できなくなり、三半規管の弱い奴は酷い酔いを起こすらしい」

 「成る程・・・それって、言うほどの欠陥なのか?個人差にも思えるが」

 「馬鹿野郎、めちゃくちゃだよ。乗ってる間にも酔うんだぞ?もう、乗ってる間にちょっと吐いちまうし、降りた後なんかウォッカを五本飲んだ後より吐いたわ」

 「そ、それは・・・やばいな」


 ドン引きした顔のティガが少し後ずさる。なんというか、この愛らしい兎の容貌でそんな事を言われると、何となく近づきたくはなかったのだ。

 とはいえ。


 「ま、どちらにしろ乗るよな?」

 「誰に言ってるの、当然だよ」


 二人はこんな手段が無ければ飛び降りてでも行こうとしていたのだ、渡りに船、というよりバイクだが、エインとラビンには感謝してもしきれない。


 「はっはっは!漢だな、お前ら!じゃあ行くか、時間ねえんだろ?」

 「え?ついてくんのか?」

 「あたぼうよ、雲を通り抜けるには決められた道を通る必要がある。エインのやろうは馬鹿げた魔力量でごり押ししながら探索したらしいが、お前らにはその時間も魔力も無いだろ?」

 「ああ、そうだな・・・道案内、よろしく頼む」

 「おう」


 ニカッと牙をむき出しにして笑うラビン、言ってはいないが、少々恐ろしいとティガとレオンが感じてしまったのは仕方のない事だろう。





 「雲の下の空を飛ぶって経験は何度かあったけど、こうして最下空域を見下すのは初めてかも」

 「・・・」

 「ほら、見てよオーキスちゃん!あのでっかい化け物!もしかしなくてもあの変な奴ってあれが本体だよね!」

 「・・・」

 「昔、エインに食べさせて貰ったたこ焼きって食べ物があるんだけど、あんな感じの赤い奴の足が入ってるのに、めちゃくちゃ美味しかったな〜」

 「貴様、楽しいか?」

 「え、何が?」

 「・・・別に、何でもない」


 一人でずっと喋り続ける彼女の事をずっと無視していたオーキスだったが、流石に悪いと思ったのだろうか、自分から話しかけた。

 まあ、無用な心配だった訳だが。

 すると、ふとオーキスの方を見上げたハイルが呟く。


 「・・・オーキスちゃん、その髪の毛」

 「っ、見るな」


 瞬間、オーキスが咄嗟に頭に腕を伸ばし、ハイルの見ていたであろう箇所を隠してしまう。

 しかし、肘から先が無い為、隠しきれずに純白の髪の中に混じる黒が覗く。


 「・・・オーキスには後で謝らないとな」

 「何で?」

 「貴様に話す必要は無い、それに、着いたぞ」

 「わっ!?」


 上空二十メートルの辺りから放り投げられたハイルは難なく着地すると、オーキスに手を振り返す。


 「ありがと!」

 「嫌味の一つでも言われると思ったんだがな」

 「ん?何で?」

 「・・・もういい」


 フワリと音もなく地面に降り立ったオーキスが刀を地面に突き刺し、


 「《アンテノーラ》」


 呟くと、彼女の背後に女性が現れた。青とも灰ともつかぬ色合いの髪を地面につくほどに伸ばしたその女性は凍りついた表情のまま、オーキスの失われた右腕に両手を伸ばす。

 すると、黒い氷が彼女の肘から先に現れ始め、どんどんと肥大化して氷塊となる。

 そして、儚く破砕の音が鳴り、氷が砕け散った後には彼女の腕が元に戻っていた。

 暫く感覚を確かめるように動かしてから、右手で刀を握る。


 「如何でしょうか?」

 「良き働きだ。今後も励め」

 「ありがたきお言葉」


 恭しく頭を下げた女性は現れた時と同様にその姿を一瞬で消した。

 そして、その姿を見たハイルは目を輝かせて言う。


 「すごい!オーキスちゃんの術式ってどういうものなの!?」

 「・・・話す必要は無い。それに、二人して無事なのは確かだ。後は勝手にしろ」


 あっさり言うと、オーキスはさっさと行こうとしてその歩みをハイルに止められた。


 「なんだ」

 「いやー、普通はさ、他人の人生に干渉する気は無いんだけど・・・オーキスちゃんって私の友達だから、勝手にどっか行かれちゃうと困るかな」

 「・・・二度までだ、離せ。今なら見逃してやる」

 「無理だよ。友達だもん」


 ハイルの腕が凍り始める。

 無言のままだが、オーキスの放つ威圧感と魔力はいつでもハイルを殺せると言わんばかりだ。

 ただ、ハイルはそれに全く動じずに微笑む。


 「っ」


 オーキスの表情が曇る。

 凍りついた筈のハイルの腕が黄金の炎を纏い、オーキスの力を跳ね除け始めた為だ。


 「隊長が言ってたんだ・・・私の術式は私の望みを叶える為の力だって」

 「・・・」

 「でも、私は違うと思ってる。だって、本当に私の望みを叶えるのなら、もっとみんなが幸せに生きてるだろうし、国同士の争いも、人と魔物との争いもみんな無くなって笑い合ってる筈だよ」

 

 黄金の炎はいつしかハイルの全身を包み込み、猛々しく燃え盛っていた。

 オーキスの《氷獄》を跳ね返すのみならず、彼女にまでその暖かさを伝える程に。


 「だから、さ。私は勝手にこう思ってるんだ。この力は私が私である為の術式だって」

 

 煌炎が吹き荒れる。

 舞い上がった黄金の炎がオーキスの放つ冷気すらも包み込み、飽和していく。

 無言のまま刀をハイルの頸動脈に叩きつけようと、オーキスが刀を振り下ろすが。


 「・・・」


 黄金の炎がそれを阻んでいた。

 否、それだけでは無い。オーキスの刀は斬りつければ、斬りつけた物体に《氷獄》の魔力が働く筈なのにそれすらも阻害されている。


 「術式解帰も無しにこの出力、何者だ?」


 驚愕は無い、されど興味深そうにオーキスは尋ねた。そして、尋ねられた少女はニコリと笑う。


 「改めて、だね。私はハイル、ハイル・フィルレイン」

 「ハイル・・・覚えておいてやろう、殺すまでの数秒間だけだが、な」

 「残念、そうはならないよ。私が私であるために、《希望》は存在するんだからね」


 次の瞬間、砂塵吹き荒れる大地に氷塊と炎が突如現れ、周囲一帯を吹き飛ばした。





 「地響き?まさか、他にも何かいるっていうのか?」

 「アルス様、どうかしましたか?」

 「ううん、なんでもないよ」


 ハイルとオーキスの二人が火花を散らした頃、同様に最下空域にて戦っていた青年は同じ大陸で戦う何者かに気づいた。

 だが、青年にはその事に意識を割く余裕は無い、目の前の化け物、彼らがグラトニーと名付けたそれが青年が他の箇所に注意を向けることを許さないのだ。

 光沢のある黒鱗に覆われた無数の顎門を擡げさせ、それを移動の足とした異形。

 《喰らう者》の仮称を与えられたそれは、その顎門と体躯でもって何十もの命をその身に取り込んでいく。

 辺りの戦況を見回して、青年が呟いた。


 「隊列を整えて、少し後退しよう」


 冷静な判断だった。

 兵達の疲れと士気の下がり具合、何より仲間を殺された事による怒りで目が曇っている者が何人もいる状況下では、まともな指揮は出来ない。


 「了解しました」


 副官の女性が伝令を回すべく下がったのを確認して、青年は一歩前に踏み出した。

 確かに後退は戦線を立て直す上で打ちやすい一手だが、それは敗北への一歩ともなり得る。

 ただのイメージと言われればそれまでだが、下がるという行為は時として人の精神を蝕む毒となる事を彼はよく知っていた。

 故に、彼は叫ぶ。


 「総員!敵を見据えろ!」


 怒号では無い、だが、大気を震わせ、彼方まで響き渡る声は味方の意識を見事に彼と、グラトニーに向けさせる。


 「敵は強大だ!掛け替えのない仲間も多く失った!されど恐れるな!」


 靡くプラチナブロンドの髪は黄金を溶かしたかのように美しく、聡明さを感じさせる横顔は中性的で天使を思わせる。

 黄金比とも言っても過言では無い手足、胴体、頭のバランスに筋肉質では無いのに、無駄のない引き締まった身体。

 その手に携えられた一本のロングソードは主人の意思に応えるが如く、解放され、その真の姿を衆目に晒す。


 「そして見よ!我が栄光を!《カリブルヌス》の輝きを!」


 彼こそはオニキア軍最高戦力の一人、守護士アルトリウス・マグナ

 飛び上がり、大上段に構えた剣は光を纏ってその刀身を十倍以上に伸ばしている。


 《英雄の一太刀エクスカリバー


 圧倒的な魔力の奔流で押し潰す、ただそれだけの力技はアルトリウスという英雄が放つ事で必滅の一撃となり、異形の体躯を両断した。




 


 

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