プロローグ
砂嵐の止まぬ戦場。
この、木の一本も、草の一房さえも生えぬ不毛の大地をエインは駆け抜ける。
夜の闇のような黒紫色の黒髪を灰と土とで汚し、黒曜石を思わせる漆黒の瞳には強い意志を感じさせる。所々が焼き切れた軍服の胸元に輝くのは一等星と三本のラインに、不滅を表す剣を読み込む蛇の刺繍はオニキア帝国軍大尉という彼の身分を示す。
「助けてくれっ!!足がっ、足が!」
「痛え・・・痛え・・・何でこんな事に」
四方八方から聞こえてくるのは数多の悲鳴と戦闘音、それに何より聞いてるだけで精神を侵される気味の悪い咆哮。
常人であれば数秒で廃人と化すようなそれらの音の嵐の中、突然、胸ポケットにしまっておいた通信機の音が耳に割り込んできた。
エインは立ち止まる事なく、胸ポケットに手を伸ばすが。
「っ」
突如、砂塵の向こうより何かが襲撃してきた事でその動作を中断させられる。
咄嗟に腰に吊るした刀剣タイプの魔力兵装で受け止めて、そのまま弾き返すと、
「ガアアアーッ!!」
襲ってきたそれはこの戦場で幾度となく目にした化け物であった。
黒に近い灰色の肌をした十歳程度の子供のような体躯に、背には悪魔のような歪な翼。その顔には目も、鼻もなく、獣のような鋭利な牙しかない。
更に、ドンドンと砂嵐の中から現れてくるそれはエインを囲むように数を増やしていく。
その数、およそ五十。
並みの軍隊ならば三師団は全滅出来るであろう戦力だ。
それらを眺めながら、通信機の応答ボタンを押す。すると、待ってましたとばかりに少女の甲高い声が入った。
『隊長、報告です!』
「うるせえ・・・悪いが、戦闘に入った・・・五行以内で手短に纏めろ」
『ええっ!?五行以内ですか?すいません、今から下書きするんで待ってください!』
そんな暇があるなら増援に来いという言葉を飲み込みながら、通信機を投げ捨て、
ーー言葉を紡ぐ。
「迅雷展開」
瞬間、戦場に雷鳴が轟いた。




