63.帰還
「ええっ、あの女が!?」
「そうなんだよ、俺、はっきりこの目で見たんだよ!!」
「人混みの中だから見間違えたって可能性もあるんじゃないの?」
「いいや、あれは確かに女頭目だった。間違い無い!」
鍛錬場に居た美智子とクラリッサを一旦応接室まで戻した賢吾は、城下町で遭遇したあの女頭目の話を真っ先にする。
忘れたくても忘れられないのがあの女頭目なのだが、そうだとするとその女頭目はどうして人が多いこの王都にやって来たのだろうか?
「賢ちゃんを探しに来た……とか?」
「ありえるわね。せっかく売り飛ばした筈の奴隷に逃げ出されたって事になったら信用問題だから、何としても逃がす訳にはいかないじゃない」
「……怖い事言うんだな。とにかく、しばらく俺は外に出ない事にするよ」
「うん。それが賢明ね」
「じゃあ警備の強化をしばらくこっちでも用意させておくわね」
「ああ、助かるよ」
クラリッサが警備の増強を決定した所で、その賢吾はもう1つ別の事を思い出した。
「……あ、そうだ。クラリッサに聞きたいんだけど」
「何?」
「ロルフとレメディオスってもう帰って来てるのか?」
「え? いや、帰って来るのは今日の夕方だって話を昨日したじゃないのよ」
「そうだよなぁ……確かにそうだよな?」
「どうしたのよ?」
「何かあったの?」
腕を組んで考える素振りを見せる賢吾に、クラリッサと美智子からの視線が突き刺さる。
その視線を受けた賢吾は、思い切って聞いてみる事にした。
「もしかして、ロルフとレメディオスってもうこの王都に帰って来てるのか?」
「だから帰るのは今日の夕方だってば。同じ事を何度も言わせないでよ」
「だよ、な……」
「その人達の事が気になるの?」
美智子の質問に賢吾は頷く。
「ああ。実は昨日の夜、この城の中でレメディオスらしき人影を見て……そしてさっき城下町を散策している時にロルフらしき人影を見たんだ」
「それ、多分人違いよ。だって今日の夕方に帰って来るって、こうして手紙まで送って来てるんだから」
「……だよなぁ」
バサリと目の前に突きつけられた紙を見て、賢吾は納得し切れない表情ながらも強引に自分を納得させるしかなかった。
「他人の空似って良くある話じゃない。それに、私達には今やるべき事があるでしょ?」
「ああ、なら今日の美智子のトレーニングはこれから俺が引き継ぐよ」
やる事も無くなったし、騎士団の建物の中なら安全だろうと言う事でトレーニングの引継ぎを申し出る賢吾。
しかし、クラリッサは首を横に振ってもっと良いアイディアを出して来た。
「どうせなら3人でやりましょうよ。私も今日は非番だし、もしその盗賊団の女がやって来ても私がついていたら色々と対応も出来るだろうからね」
「良いのか?」
「ええ。元々貴方から引き受けた事だし、途中で別の人に引き継ぐのは何だかモヤモヤするから」
このクラリッサの一言で、急遽その日のトレーニングは3人合同でやる事になった。
日本拳法の基礎トレーニング、武器への対処法、武器の扱い方、身体捌き等々、出来るだけの事を時間の許す限りでやり続ける3人。
そして夕方になり、風呂で汗を流した3人はレメディオスとロルフを出迎えた。
「お帰り!」
「ああ、どうだった?」
「陛下への報告はこっちで一通り済ませたわ。そっちは?」
「こっちも後始末は全て終わった。さて、また色々と話を聞かせて貰うぞ。それから君と会うのは初めてか」
「そうですね……」
美智子はレメディオスとロルフと対面するのは初めてだが、この男から感じる威圧感は相当なものだった。
その威圧感の正体が何なのかは分からないが、一瞬たじろぎそうになりながらも何とか返事をする。
「第3騎士団団長のレメディオスだ。こっちの髪が青いのは副騎士団長のロルフ」
「美智子です」
「美智子だな。なら、また事情聴取の時に詳しく自己紹介をして貰おう」
国王への帰還の報告に向かうレメディオスとロルフを見送り、クラリッサは事情聴取様の書類を纏める。
「最初にここに来て貰った時に色々纏めたものがあるから、事情聴取と言ってもそんなに時間は掛からない筈よ」
「そうして貰えると助かるわ」
地球では警察の厄介になった事なんて勿論無いので、美智子は不安な表情が隠しきれない。
そんな美智子の表情から心境を察し、賢吾がフォローのつもりで言葉を投げ掛ける。
「心配するな。俺も一緒だし、そもそも俺だって最初にあのレメディオスとロルフとクラリッサの3人に事情聴取されたんだからさ」
「うん……どうもありがとう」
「それよりも、俺達が伝えなきゃいけない事があるだろう?」
「あ……」
その賢吾の一言で美智子も思い出す。
賢吾が城下町であの女頭目の姿を見たと言うのもそうなのだが、その城下町に繰り出す前に賢吾が提案したあのアジトの場所を聞き出す為のアイディアの話もしなければならない。
つまり賢吾と美智子の事情聴取の後が本題となるのだ。
どう言う反応があるかどうかは話してみないと分からないが、話してみるだけの価値はあるだろう。