62.尾行
(あれ?)
人混みに流されてすぐに見えなくなってしまったものの、一瞬だけ見えたその横顔は賢吾の記憶にハッキリと残っている。
(ロルフ、だよな……?)
服装は騎士団の制服では無かったみたいだし、他人の空似と言う事も十分に考えられる。
だが昨日の夜、鍛錬城へ向かっていた時に騎士団の建物の中で一瞬だけ見かけたあのレメディオスらしき人物の事もあるので、賢吾の足取りはすぐに今まで歩いて来た人混みを逆戻りし始める。
人違いならそれで良い。
だけどもし本人だったら、今日の夕方に王都に着く筈が早めに戻って来ていると言う事になるのでせっかくだから王都の案内を頼みたいと考える賢吾。
そんな軽い気持ちで人混みをすり抜けつつロルフらしき人物を追いかける賢吾だが、やはりこの王都で活動している人間だけあるのか向こうもなかなか追いつかせてくれない。
(速いな……)
幾ら東京のラッシュで鍛えたとは言っても、人混みでは普通に歩くよりも格段に歩き難いのは明らかである。
そのまま人混みに紛れる様にしてどんどん離され、最終的には見失ってしまった。
「見失ったか……」
一旦人混みから抜けて脇道へと逸れ、一息つく賢吾。
幾ら小柄な体格だと言っても、子供がこの人混みをすり抜けるのと大人の体格の賢吾がすり抜けるのとでは難易度がかなり違う。
別に無理をして追う必要は無いので逃がしてもさほど悔しくは無いのだが、昨日の一件もあって気になったゆえの尾行だった。
2日連続でこうして良く似た人物を見かけるなんて、運が良いのか何なのか。
(もしあれがロルフだったとしたら、やっぱり昨日のもレメディオスだったのか?)
そうだとしたら早くこの王都に着いた事になるが、クラリッサの口からは今見かけたロルフは元より昨日のレメディオスの話も何も聞いていないのでやっぱり別人を見間違えた、と言う結論でこの話題は終わらせる事にした。
(そうだよな。早く帰って来たんだったら真っ先にそれこそ王様とかクラリッサとかに自分達の帰還を報告しに行く筈だし、そう言う報告が何も無いって言うならやっぱり別人だ、別人)
他人の事を気にし過ぎたな、と賢吾は気を取り直して再び城下町の探索に向かうべく人混みに紛れ、メインストリートを歩き始める。
そのおよそ5分後、賢吾は路地裏の大きな木箱の影に隠れていた。
(……行ったか?)
木箱のフタを上げてそっと顔を出し、自分の後ろからやって来ていた複数の人間達を上手くやり過ごしたのを確認してホッと息を吐いた。
だがそれと同時に、自分が尾行していた人間も見失ってしまった。
賢吾が尾行していたその人物と言うのは、忘れたくても絶対に忘れる事の出来ないあの黒髪の女頭目のウルリーカ・シンベリ。
ロルフらしき人物を見失って再びメインストリートを歩き出した賢吾だったが、その人混みの中で今度はまさかの集団に遭遇する事になった。
「……!!」
思わず顔を不自然なまでに逸らし、スーッと斜めに歩く方向を変えてその集団に察知されない事に全力を注ぐ賢吾。
(な、何であいつ等が……!?)
移動手段にワイバーンを使っているのなら、あのフードの男と同じく差ほど時間を掛けずに奴隷市場のある港町方面から飛行して来る事も可能だ。
だがレメディオスから聞いている話によれば、あの女が率いている盗賊団は王国内でもなかなか名の知れた存在らしいのでこの王都では捕まる可能性が高い。
まして、レメディオスや自分は女頭目ウルリーカの顔を見ているから似顔絵を作る事も出来る。
なのに何でこの王都で、あの女頭目を見かける事になるんだ……と賢吾は自分の不運さを呪った。
それこそ今回が人違いであってほしいと切に願うが、あの派手な赤いコートは嫌でも脳裏に強いイメージで焼きついている。
(とにかく、早くこの事を美智子とクラリッサに知らせないとな!!)
その辺りに居る騎士団員に護衛して貰いながら騎士団の建物まで戻りたいのだが、人混みの中から抜け出して騎士団員を探してもこんな時に限って見つからない。
かと言って騎士団員を探して王都をウロウロしていたら、今度はウルリーカやその部下に見つかってしまう可能性が出て来る。
幸いにも今の自分が居る場所は余り騎士団の建物から離れていないしので、さっさと戻ってしまえば良いだろうと足早に賢吾は歩き始める。
(人を隠すなら人の中だ!)
もう1度人混みの中に飛び込むのは、それこそさっきのウルリーカの一団とまた遭遇する可能性があるので気が若干引けるものの、「木を隠すなら森の中」との言い回しもある位なので賢吾は自分の身を隠しつつ安全に帰れる方法を選ぶ。
だが現実はなかなか足を進ませてはくれず、何とUターンして来たのか再びそのウルリーカの一団とすれ違いそうになり、慌てて人混みを抜け出して横の路地の木箱の中へ。
ウルリーカ率いるその集団も賢吾が木箱に隠れた数秒後に同じ路地に入って来た為、あと少し隠れるのが遅れていたらアウトだっただろうと心臓の早鐘を感じながら賢吾は一安心。
(あー、心臓に悪いぜ……)
寿命がこれ以上縮む前にさっさと戻ろうと決意し、再びメインストリートの人混みに紛れて早足で騎士団の建物に向かって歩き始めた。




