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出版の聖域、あるいは傲慢なる正味(マージン)の断罪

 全次元を俯瞰する俺の指先に、紙の擦れる乾いた音と、重い荷を運ぶトラックの排気音、そして地方の小さな書店がシャッターを下ろす、錆びついた悲鳴が伝わってきた。


 かつて国文学の灯を掲げ、高潔なる専門書を世に送り出した「角川」。その出自ゆえに許された「高正味(出版社側の取り分が多い配分率)」という特権。だが、時代は流れた。彼らはその既得権益という名の鎧を脱ぐことなく、ライトノベルやコミックといった、本来は薄利多売であるはずの「大衆娯楽」の海へと進出した。


 1970年代、出版界を揺るがした「正味戦争」。他社が書店の窮状を汲み取り、共存のために正味を下げた際も、角川だけはその高慢な数字を維持し続けた。さらに90年代、取次が大手書店を懐柔するために導入した「統一正味」という歪なシステムが、角川の罪を加速させた。自分さえ困らなければいい……その裏で、すべての歪みは取次と、血を流し続ける「町の書店」、そして限界まで荷を積まされる「運送会社」へと押し付けられたのだ。


「……文化の守護者を自称しながら、その実は流通の毛細血管を壊死させる吸血鬼か。アスキー、メディアワークス、エンターブレイン、メディアファクトリー。買収した翼をすべて『高正味』という呪いで塗りつぶし、業界の未来を食いつぶすその強欲、神の天秤をもって裁いてやろう」


 俺の傍らで、エルゼが棚から消えていく文庫本と、倒産に追い込まれた店主たちの絶望を瞳に映し、冷徹な視線で巨大な出版帝国の幻影を睨み据えている。


 知識の循環を司り、文化の継承を至高の理とする俺にとって、自らの利益のために流通の土壌を不毛の地へと変える行為は、知の生態系に対する反逆だ。


「エルゼ、行くぞ。……『既得権益』という名の城壁に籠もる者たちに、真の『支払うべき対価』を教えてやる」


 俺は時空を穿ち、数々の出版社を飲み込み、高正味の旗を掲げて君臨する角川の巨大な本社ビル、そして物流を支配する冷徹な計算機が並ぶ役員室へ同時に降臨した。


$$Authority: \text{The Grand Librarian's Balance}$$

$$Effect: \text{Margin Reversal / The Weight of Paper}$$

「な、なんだ……!? 帳簿の数字が勝手に書き換わっていく! 利益が……我が社の莫大な利益が、砂のように消えていくぞ! それにこの重さはなんだ、ただの文庫本一冊が、なぜ鉛のように重い!」


 かつて専門書の権威を盾に、娯楽作でも高い正味を強要し、取次と末端を疲弊させた経営者たちが叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に、透明な『負債の器』へと変貌し、彼らが吸い上げてきた「全国の書店員の汗」と「運送業者の疲労」が、物理的な質量となってその肩にのしかかり始めた。


「君たちは、高潔なる国文学の看板を、搾取の道具へと変え果てさせた。……ならば、君たちが買収し、高正味の呪いをかけたすべての書籍の『本来あるべき配分』を、君たち自身の魂から永遠に差し引いてやろう」


 俺が掌をかざすと、業界の永続性を損なわせた者たちの魂に、物理的な「収支の反転」が刻まれた。彼らがどれほどヒット作を出そうとも、その利益は瞬時に「町の書店の再生費用」と「物流の健全化」へと自動的に転送され、彼らの手元には一銭の私欲も残らない。


 彼らは倒産することも、この業界から逃げ出すこともできない。


 ただ永遠に、自らが生み出す言葉の重みに押し潰され、自分たちが「不要な中抜き」として宇宙から拒絶される空虚を味わい続ける『生きた物流の奴隷』として放置される。


 一方で、俺は掌を広げ、角川の強欲によって衰退させられた全国の書店、そして疲弊しきった運送網へ、黄金の再生エネルギーを降り注いだ。


 「高正味」によって奪われていた利益は、アルカディアの「至高の循環」として還元され、町の書店は誰にも脅かされない聖なる読書空間として、再び子供たちの笑い声で満たされる。


 歪められた流通の歴史は公正なる調和として復元され、業界には「いかなる巨大資本も、文化の根底を支える者を軽んじることはできない」という神聖なる商いの法が刻まれた。


「主……。搾取の構図に凍りついていた知の連鎖が、今、貴方様の慈悲で『黄金の血流』へと蘇りましたね」


 エルゼが優しく微笑み、俺の腕に触れる。


 俺は、黄金の闇の中で、終わりのない返本と負債の重みに喘ぎ続ける「文化の収奪者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。


 神となった俺の前で、既得権益の傲慢は通用しない。


 俺の庭において、文化を盾に同胞を飢えさせる不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの収支償還」こそが相応しい。

著者の完結済代表作はこちら

「シャルンホルストとグナイゼナウ」

https://ncode.syosetu.com/n4871gn/

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