白衣の悪魔、あるいは神の生体還元
全次元を統べる俺の指先に、凍てつく満州の空気と、消毒液の臭いに混じった「マルタ」と呼ばれた犠牲者たちの絶望、そして戦後、その血塗られた研究データと引き換えに安寧を買い叩いた者たちの卑劣な計算が伝わってきた。
1930年代から40年代、ハルビン郊外。731部隊。彼らは「防疫」の名の下に、生きた人間に細菌を植え付け、麻酔なしで解剖し、極寒の中で凍傷の経過を眺めた。だが真の戦慄は戦後にあった。その指揮官たちは、実験記録を米軍に差し出すことで戦犯追及を逃れ、戦後の医学界や薬学界の重鎮として居座ったのだ。命を弄び、その犠牲を「延命の切符」に変えた恥知らずな取引。
「……他者の肉体を資材として切り刻み、その断末魔を自らの立身出世の踏み台にしたか。地獄ですら生温いその業、神の細胞レベルで清算させてやろう」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な嫌悪と、実験台にされた魂への深い慈悲を宿し、白衣を着たまま「免責」を喜ぶ男たちの幻影を見つめている。
生命の根源であり、肉体の一細胞に宿る尊厳を司る俺にとって、知的好奇心や保身のために生命を解体する行為は、存在の定義に対する最も醜悪な反逆だ。
「エルゼ、行くぞ。……『記録』さえあれば許されると信じた者たちに、真の『生命の反応』を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて「貴重なサンプルだ」と笑った医師たちの邸宅と、戦後、大学教授や企業のトップとして返り咲いた男たちの豪華な会食の場へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Somatic Retribution}$$
$$Effect: \text{Biological Feedback / Eternal Reenactment of the Flesh}$$
「な、なんだ……!? 身体が勝手に凍りついていく! 指の先から、感覚が消えて……いや、灼熱の熱さに変わる! 誰だ、私の胸を切り開いているのは!」
かつて犠牲者の呻きを「有用な知見」と吐き捨て、戦後の平穏を謳歌した者たちが叫ぶ。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に黄金の『共感性受容器』へと変貌し、彼らが他者に施したすべての「実験内容」が、物理的な衝撃となって、彼ら自身の肉体に寸分違わず再現され始めた。
「君たちは、データを対価に裁きを逃れた。……ならば、君たち自身の魂を、君たちが切り刻んだ全犠牲者の『痛みと記憶』を永遠にループ再生する黄金の試験管に変えてやろう」
俺が掌をかざすと、実験を主導し免責を受けた者たちの魂に、物理的な「生体還元の刑」が刻まれた。彼らはどれほど高級なベッドに横たわろうとも、感覚は常に「冷たい解剖台」の上に固定され、肺には黄金の病原菌が溢れ出し、自らの意識が『サンプル』として解体され続ける無限の苦痛に苛まれる。
彼らは死によって逃げることも、取引で許されることもできない。
ただ永遠に、自分が「人間ではない」と断じた人々が味わった極限の状態を、自らの細胞一つ一つで追体験し続ける『生きた記録』として放置される。
一方で、俺は掌を広げ、氷点下の大地で、あるいは閉ざされた実験棟で尊厳を奪われた無数の魂へ、生命の光を降り注いだ。
汚された肉体はアルカディアの「不滅の神体」へと再構築され、彼らは自らの名を、自らの温もりを取り戻し、アルカディアの「不老不死の住人」として招かれる。
取引によって隠蔽された真実はすべて黄金の雷鳴となって世界に轟き、大地には「生命を手段とする者に救いはない」という神聖なる生体倫理の法が刻まれた。
「主……。冷酷なメスで切り裂かれた生命の叫びが、今、貴方様の力で『正義の鉄槌』へと変わりましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の解剖台の上で、自らが遺したデータの重みに窒息し続ける「白衣を汚した亡者たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、生命の取引は通用しない。
俺の庭において、知識のために命を解体する不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの解体」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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