大英帝国の毒杯、あるいは神の清算
全次元を統べる俺の指先に、甘くねっとりとした煙の臭いと、一国の民を廃人に追い込んでまで得ようとした銀の冷たさが伝わってきた。
1840年、アヘン戦争。イギリスは茶の輸入による赤字を埋めるため、植民地インドで栽培させた麻薬「アヘン」を、清(中国)へ密輸し続けた。国民が薬物中毒に苦しみ、国力が衰退する惨状を前に清がアヘンを廃棄すると、イギリスは「自由貿易の阻害」を大義名分に最新鋭の艦隊を送り込み、武力で毒を売りつける権利を勝ち取ったのだ。
「……富のために一国の未来を毒で溶かし、その悲鳴を大砲でかき消したか。法を騙り、死の煙を輸出したその罪、自らの血をもって濯がせよう」
俺の隣で、エルゼが瞳に絶対的な浄化の冷徹さを宿し、アヘンに蝕まれた街並みの記録を見つめている。
生命の根源であり、精神の気高さを尊ぶ俺にとって、富のために他者の精神を隷属させる行為は、文明の名を借りた最も卑劣な略奪だ。
「エルゼ、行くぞ。……『毒を売る自由』を愛した者たちに、逃げ場のない真の解毒を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて「中国にアヘンを売ることは名誉あるビジネスだ」と豪語したロンドンの政治家たちと、麻薬で得た血まみれの銀を数える商館へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Narcotic Recoil}$$
$$Effect: \text{Inverse Intoxication / Eternal Withdrawal}$$
「な、なんだこの不快な熱は……!? 意識が、黄金の炎に焼かれるようだ! 呼吸をするたびに、内側から肺が腐っていく!」
かつて他国の民がアヘンで廃人になるのを「自己責任」と嘲笑っていた者たちが叫ぶ。彼らの体内には、俺が指を一鳴らしした瞬間に、彼らが清へ流し込んだ全アヘンの『霊的毒素』が逆流し始めた。
「君たちは、毒を売ることで帝国を潤した。……ならば、君たち自身の魂を、君たちが生み出した数千万人の依存症者の『渇き』と『震え』を永劫に増幅し続ける、黄金の坩堝に変えてやろう」
俺が掌をかざすと、麻薬貿易を主導した者たちの肉体に、物理的な「禁断症状のループ」が刻まれた。彼らはどれほど高級なワインを飲もうとも、それは喉を焼く劇薬へと変わり、意識は常に泥沼のような絶望と黄金の激痛の狭間を彷徨い続ける。
彼らは正気に戻ることも、死という救いを得ることもできない。
ただ永遠に、自分が他者に吸わせた毒の重みに溺れ、奪った銀の冷たさに魂を凍らせる『生きた亡霊』として、歴史の裂け目に放置される。
一方で、俺は掌を広げ、アヘンによって人生を破壊された無数の民の魂、そして汚された大陸へ、生命の光を降り注いだ。
蔓延していた死の煙はアルカディアの「不滅の浄化」によって黄金の薬草の香りに書き換えられ、中毒に苦しんだ者たちの精神は、アルカディアの「至高の平穏」によって再構築される。
略奪された銀はすべて黄金の知恵へと昇華され、二度と外部からの「心の侵略」を許さない、神聖なる理が大地に刻まれた。
「主……。富のために汚された精神の庭が、今、貴方様の力で『不滅の透明』を取り戻しましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、自らの魂が毒に溶けゆく幻覚の中で永遠に喘ぎ続ける「死の商人たち」の残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、命を廃物に変えるビジネスは許されない。
俺の庭において、毒を売りつけて繁栄を築く不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの猛毒」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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