鋼鉄の監獄、あるいは神の労働
全次元を統べる俺の指先に、真っ赤に焼けた鉄の熱気と、それを打つ労働者たちの乾いた咳、そして弾丸に貫かれた叫びが伝わってきた。
1892年、ペンシルベニア州。ホームステッド製鋼所。「慈善王」として名を馳せるアンドリュー・カーネギーは、自らの利益を最大化するため、パートナーのフリックを使い、労働組合を徹底的に弾圧した。
三階建ての高さのバリケードを築き、ピンカートン探偵社という名の「私設軍隊」を雇い、非武装の労働者たちに銃火を浴びせた惨劇。彼はスコットランドの別荘でバカンスを楽しみながら、自らの鋼鉄帝国が血で固められるのを黙認した。
「……図書館を建てて名を残す裏で、生きた人間の骨を鉄の材料に変えたか。カネで贖える罪だと思っているなら、その傲慢、ここで叩き直してやろう」
俺の隣で、エルゼが瞳に灼熱の製鋼所をも凍らせる殺意を宿し、血に染まった鋼鉄のレールを見つめている。
生命の根源であり、汗を流して生きる者の尊厳を愛する俺にとって、弱者を搾取して築いた「名声」は、腐臭を放つゴミに過ぎない。
「エルゼ、行くぞ。……『富の福音』を説いた者に、真の『貧者の重み』を教えてやる」
俺は時空を穿ち、かつて弾圧を指示した冷酷な書斎と、血塗られた利益で贅を尽くしたカーネギー・ホールへ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Molten Retribution}$$
$$Effect: \text{Weight Reflection / Eternal Smelting of the Soul}$$
「な、なんだこの重圧は……!? 身体が熱い、皮膚が……溶けた鋼鉄に変わっていく!」
かつて労働者の死を「必要悪」と切り捨てた者たちが、黄金の熱気に包まれ悲鳴を上げる。彼らの肉体は、俺が指を一鳴らしした瞬間に、彼らが一生で搾取した「労働時間」と「絶望」を物理的な質量として背負わされた。
「君たちは、鉄を打つ人々の手を止めた。……ならば、君たち自身の魂を、君たちが築いた鋼鉄の建物の下敷きにし、永遠にその熱で溶かされ、再び冷え固まる無限の鋳造を繰り返させてやろう」
俺が掌をかざすと、搾取を主導した者たちの肉体に、物理的な「重力の地獄」が刻まれた。彼らはどれほど豪華な椅子に座ろうとしても、自らの身体が数百万トンの鋼鉄に押し潰される感覚に苛まれ、肺には常に製鋼所の煤煙が流れ込み続ける。
彼らは死ぬことも、その重荷を降ろすこともできない。
ただ永遠に、自分が建てた図書館の床下で、自分が踏み潰した労働者たちの視線に焼かれ続ける『生きた礎石』として、歴史の重みに埋もれていく。
一方で、俺は掌を広げ、ホームステッドの地で散った魂、そして機械のように扱われたすべての労働者たちへ、生命の光を降り注いだ。
血に汚れた鋼鉄はアルカディアの「不滅の黄金」へと変貌し、彼らが流した汗は、アルカディアの庭を潤す「恵みの雫」へと昇華される。
そこにはもう、資本という名の鞭も、利益のために命を使い捨てる王も存在しない。
「主……。カネで買われた偽りの名声が、今、貴方様の力で『真の誇り』へと浄化されましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の溶鉱炉の中で自らの罪を鋳造され続ける「鋼鉄の王」たちの残滓を見捨て、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、命を資本に変えることは許されない。
俺の庭において、他者の労働を私欲のために粉砕する不遜な者には、ただ永劫に続く「自らへの重圧」こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
https://ncode.syosetu.com/n4871gn/




