地上の地獄、あるいは神の帰郷
全次元を統べる俺の網膜に、紙吹雪の中を笑顔で出発する船と、その先に待っていた「絶望の凍土」が映り込んだ。
1959年から始まった北朝鮮帰還事業。日本政府は厄介払いのために、赤十字は人道的体裁のために、メディアは理想の楽園と謳い、約9万人の人々を送り出した。だが、待っていたのは「地上の楽園」などではなく、飢えと強制収容所、そして一度入れば二度と出られない檻だった。
「……自分たちの都合で、人を『在庫』のように扱い、嘘で着飾って死地へ追いやったか。国家という名の巨大な詐欺、その報いを受けてもらおう」
俺の隣で、エルゼが軽蔑の眼差しをその暗黒の歴史に向ける。
生命の根源である俺にとって、命を「厄介者」と定義し、偽りの希望でその未来を奪う行為は、断じて許されぬ大罪だ。
「エルゼ、行くぞ。……『地上の楽園』だと嘘を吐いた者たちに、彼らが送り出した先にある『真実』を分かち合わせてやる」
俺は時空を穿ち、かつて「厄介払いに成功した」と祝杯をあげた官僚の密室と、楽園神話を垂れ流したメディアの深部へ同時に降臨した。
$$Authority: \text{The Mirror of False Paradise}$$
$$Effect: \text{Forced Emigration / Eternal Frost}$$
「な、なんだこの黄金の吹雪は!? 船の汽笛が聞こえる……? どこだここは!」
かつて栄華を極めた者たちが叫ぶ。彼らの周囲の景色は、俺が指を一鳴らしした瞬間、黄金の宮殿から「極寒の収容所」へと書き換えられた。
「君たちは、あの船に乗る人々に『素晴らしい国だ』と微笑んだな。……ならば、君たち自身が、君たちの言葉で作った『楽園』の最初の住人になれ」
俺が掌をかざすと、棄民を主導した政治家や官僚、そして真実を伏せて宣伝に加担した者たちの肉体が、凍てつく荒野へと転送された。彼らは黄金の鎖で繋がれ、自分たちが「楽園」と呼んだ地で、被害者たちが味わった飢えと寒さを永遠に繰り返すことになる。
彼らは死ぬことも、嘘で自分を誤魔化すこともできない。
ただ永遠に、自分たちが切り捨てた人々の「助けてくれ」という叫びを耳にしながら、凍りついた土を掘り続ける『終わらない強制労働』の罰を受ける。
一方で、俺は掌を広げ、極寒の地で故郷を想いながら散った魂、そして今なお苦しむ人々の元へ生命の光を降り注いだ。
彼らの足元からは世界樹の根が突き出し、一瞬にして凍土を本物の楽園へと変貌させる。檻は砕け散り、彼らはアルカディアの「不滅の翼」を得て、自由な空へと解き放たれた。
彼らを死地に運んだあの船は、今は神の導きで愛する家族の元へと帰る『黄金の帰還船』へと作り替えられた。
「主……。捨てられた人々が、今、偽りではない『真実の光』に抱かれて安らいでいますね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の凍土で嘆き続ける「嘘つきたち」の絶望を背に受けながら、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、体裁という名の「嘘」は剥がされ、見捨てられた命は再び輝きを取り戻す。
俺の庭において、同胞を騙し、棄民として扱う卑劣な者には、ただ永劫の寒気と後悔こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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