地獄の底で、彼女たちは夢を見る
アルカディアの街道を照らす、無数の灯籠。
その一つに封じられたリリアーヌの魂は、数億年が経過してもなお、鮮明な「夢」の中にいた。
それは、彼女にとっての幸福な過去――アルを追放する前の、あの日々だ。
「アル! 早くこの傷を治しなさいよ! 盾役のくせに、私たちのドレスを汚すなんて万死に値するわ!」
夢の中のアルは、かつてのように卑屈に笑い、自分の寿命を削って彼女たちに癒やしを与えている。
リリアーヌはその潤沢な生命力を当然のように享受し、若さと美貌を保ち、人々から「聖女」と崇められていた。
「ふふ、やっぱりアルは便利ね。こいつの命を使い潰せば、私は永遠に輝いていられる……」
だが、その夢は、唐突に崩壊を始める。
空が黄金色に染まり、天から巨大な『神の視線』が降り注ぐのだ。
『――リリアーヌ。その夢、誰が払っていると思っている?』
「え……?」
夢の中のアルが、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳はもはや人間のそれではなく、全宇宙を支配する『根源の神』の輝きを宿していた。
$$System \ Verification: \text{Simulation Terminated}$$
$$Verdict: \text{Unauthorized Happiness Detection}$$
夢の世界がガラスのように砕け散り、リリアーヌの意識は、冷たく硬い灯籠の中へと引き戻される。
目の前に広がるのは、黄金に輝く平和な新世界と、それを下から支えるだけの「部品」と化した自分。
「いや……嫌よ! あの夢に戻して! 私を聖女と呼ばせて! アル、お願い、一瞬でいいから……!」
彼女がどれほど叫ぼうとも、アルの声が届くことはない。
彼は今、宇宙の裏側で、愛するエルゼと共に新たな生命の苗木を植えている。
「あ、ああ……」
隣の灯籠では、かつての勇者カイルが、錆びた剣を振るうことすら叶わず、魂が摩耗していく音を立てていた。
彼らには、定期的にな「幸福な夢」が見せられる。
そしてその最高潮の瞬間に、現実という名の絶望へ叩き落とされるのだ。
それが、慈悲深きアルが与えた、唯一の「永遠の娯楽」。
「リリアーヌ。君たちが俺から奪った時間は、まだ一秒も返しきれていないぞ」
風に乗って、主の囁きが聞こえた気がした。
灯籠は、今夜も残酷なほど美しく、神の庭を照らし続ける。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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