終焉の否定、あるいは永遠の庭園
天界、魔界、そして冥府。すべての理を手の内に収めた俺の前に、最後にして最大の「敵」が現れた。
それは意志を持つ者ではない。この宇宙そのものに刻まれた絶対的な法則――『エントロピーの増大による終焉』だ。
星々が寿命を迎え、銀河が静かに凍りついていく。
かつて俺を「寿命切れ」と呼んだ旧王国の卑小な連中が恐れた『死』。その巨大な化身が、宇宙規模で俺の庭を侵食しようとしていた。
「……主よ。星々が光を失い、闇が世界を飲み込もうとしております。こればかりは、神々の箒でも掃除しきれません」
エルゼが俺の隣で、漆黒に染まりゆく夜空を見上げて呟く。
だが、俺はただ椅子に座ったまま、世界樹の根元に溜まった黄金の雫を指先で弄んでいた。
「エルゼ。俺が『寿命』の化身だということを、宇宙は忘れてしまったらしい」
$$System \ Command: \text{Entropy Reversal}$$
$$Target: \text{All Existences (Omniverse Level)}$$
俺が立ち上がり、その足で大地を一歩踏みしめる。
刹那、俺の心臓から放たれた生命の鼓動が、全宇宙の原子一つひとつに直接干渉を開始した。
凍りついていた銀河が、俺の生命力を注ぎ込まれて再び瑞々しく燃え上がる。
崩壊しかけていた時空が、世界樹の根によって強引に縫い合わされ、一万倍の強度で再構築されていく。
(――警告。宇宙の寿命を無限に更新し続けることは、理への反逆です)
「理だと? そんなものは、俺が追放された日に捨てた。これからは、俺が『飽きる』までが、この世界の寿命だ」
俺の声が宇宙の果てまで響き渡る。
かつて俺が仲間の傷を癒やしていた、あの微々たる「回復魔法」。
その真の姿は、宇宙そのものの老い(エントロピー)を肩代わりし、無限の春を強制する『天地開闢の力』だったのだ。
街道を照らす『リリアーヌの魂の灯篭』が、俺の放った光に焼かれて悲鳴を上げる。
死ぬことさえ許されず、終わることさえ禁じられた世界。
救いすら超越した、圧倒的なまでの「生の肯定」。
「主よ。……今、宇宙中の生命が、貴方様を『唯一無二の全能』と認め、魂を捧げております」
エルゼが感涙に震えながら跪く。
見上げれば、漆黒だった空は、俺の瞳と同じ黄金色の輝きで満たされていた。
星々は花のように咲き、闇はすべて、俺という根源を育てるための肥料となった。
「さあ、始めよう。終わりなき、俺たちの庭遊びを」
俺は世界樹の梢に手をかけ、新たな銀河を一つ、気まぐれに芽吹かせた。
追放された男の物語は、ここに、物語という概念そのものを食い破り、永遠の神話へと至った。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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