黄金の庭、永遠の微睡み
それから、数億年が経過した。
かつて「王国」と呼ばれた場所も、宇宙を揺るがした「邪神」の残骸も、すべては悠久の時が流す塵へと消えた。
だが、この宇宙のどこにいても見上げることができる巨大な光柱――世界樹『アルカディア』だけは、変わることなく銀河の中心にそびえ立っていた。
現在の宇宙において、命ある者は皆、一つの教義を胸に刻んでいる。
「この宇宙のすべての鼓動は、アル様からお借りしているものである」と。
「主よ。本日も、新たな銀河系から巡礼者たちが参っております。彼らは貴方様の『一息』を浴びるだけで、種族全体の寿命が万年単位で延びると信じているようですわ」
傍らに立つエルゼが、穏やかな微笑みを浮かべて報告する。
数億年の時を経ても、彼女の美しさは一分たりとも損なわれていない。俺が彼女に与え続けている生命力が、時間という概念を凍結させているからだ。
「……勝手にさせておけ。俺はただ、この花の世話をしたいだけだ」
俺は庭に咲く一輪の青い花に、指先から一滴の雫を落とした。
その雫一つで、枯れ果てた太陽系が三つ、一瞬で再点火されるほどのエネルギーが込められている。
ふと、庭の片隅に目を向ける。
そこには、数億年間、一度も絶えることなく燃え続けている街灯――『青い炎の灯籠』があった。
「あ……あ……ぁ……」
微かな、虫の羽音のような声。
それは、リリアーヌとカイルだったものの成れの果てだ。
魂の輪郭すら崩れかけ、自我があるのかも定かではないが、彼らは今も「死ぬこと」を許されていない。
俺がこの宇宙を「永遠」と定義した以上、彼らの罰もまた、永遠に執行され続ける。
「主。あの灯籠、少し光が弱まってまいりましたね。……新しい『罪人の魂』を補充いたしますか?」
「いや、いい。……あいつらには、この宇宙が終焉を迎えるその瞬間まで、俺の庭の美しさを見せつけてやるのが一番の教育だ」
俺は椅子に深く腰掛け、黄金色に輝く空を見上げた。
$$Cosmic \ Status: \text{Perfect Equilibrium}$$
$$Life \ Support: \text{Infinity (Linked to Main Body)}$$
かつて、俺の寿命は「一回の回復」で一ヶ月削られていた。
あの時、俺を捨てた連中は、俺の寿命が尽きるのを嘲笑いながら待っていた。
だが、どうだ。
削り取られ、使い潰されたはずの俺の命は、今や宇宙そのものの心臓となり、全存在の根源となった。
俺を「役立たず」と呼んだ連中は、その『役立たず』が与える光がなければ、一秒も形を保てない塵になった。
「アル様。……世界は今日も、貴方様を愛しております」
エルゼが俺の手をとり、その胸に抱く。
俺は静かに目を閉じ、無限に広がる庭園のざわめきに耳を傾けた。
追放された男の物語。
それは、終わりのない、永遠の平和という名の支配。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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