9.そろそろの筈だよな-よう、待たせたか?-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
ゲートをくぐり歩道に出る。こちらの道は、正門の道より前述の通り、車通りが少ない。一瞬で済むとはいえ、車を一時停止するにはちょうどいいのだ。
――あの電話では、ちょあど車に乗って駐車場を出る頃具合だろう。俺も支度にちょっと時間をかけたから……そろそろの筈だよな。
とカズが思っていると、ちょうど一台の見知った車がハザードを焚きながら路肩に寄せて来た。
フランス製の外車である。外車と言ってもハッチバックの、分類でいえば[小型車]になるか。吉岡は無類の外車好きである。彼に言わせると[日本車は、確かにいい車なのは分かるが誰でも乗ってるし、個性がない]のだそうだ。ドイツ車も、彼に言わせれば[誰もが乗っている]のだそうだ。車はフランスかイタリアに限る、というのが彼のポリシーなのだ。
その外車の窓が開き、
「よう、待たせたか?」
そこには吉岡の姿がある。
「いや、俺もちょうど今来たところだよ。んじゃ行きますかね」
そう言いながら助手席に乗る。
乗ると言うか[体育座りで椅子に腰かける]と言ったほうが正解かも知れない。シートのあたりまで缶やら弁当の袋やらで覆いつくされているのだ。
「なぁ、おやじよ。大学の時からほうぼうで言われていると思うのだが、少しは片付けたらどうだ?」
思わずカズの口から本音が漏れる。
だが吉岡は、
「いいんだよ、これで。何、ポイ捨てするバカ共よりよっぽどがマシだろう? それに、車を点検に出すと、それは、そーれーは綺麗になって帰って来るぜ」
――その点検する整備士さんが不憫でならないよ。
そうは思ったが、
「まぁいいや。んで? どこ行く?」
カズがそう問いかけると、
「ファミレスでもどうだ? タバコも吸えるし、茶も出来るしな」
車を出して前を見ながら吉岡が言う。
「ああ、いいぜ」
その意見に応じ、
「最近どうよ?」
そんなカズの会話で始まる。
「まぁ、俺のほうはボチボチ仕事にも慣れて来たし、これからってところだが、お前のほうはどうよ?」
「俺か? そーだなぁー、取り立てて変わった事はないよ。今の研究室で自由にやらしてもらってる」
そう言いながら背負っていたカバンを脱いで腹に抱える。本当は後部座席にでも置きたいところなのだが、それはこの車では[無理な事]だ。
そんなとりとめもない会話を十数分交わしたあと、一軒のファミリーレストランに車を滑らせる。
もう午後二時に近いこの時間、食事時を過ぎたそこは閑散としていた。
吉岡は入口に一番近いところへ止めた。
「おやじぃ、ちっとは歩く事くらいしろよ。仕事っつっても立ちっぱなしで運動してないんだろ?」
そうカズが言うと、
「逆だよ、逆。一日、まぁ今日は半日だが、いつもはずっと立ちっぱなしなんだ、一秒でも早く座りたいって思って当然だろ」
――ま、まぁ、確かに一理ある。
とは思ったものの、
「だったら余計、少し動いてから座ったほうが体にはいいのでは?」
素直な疑問が口を衝くが、
「こまけー事はいいんだよ。それより、行くぞ」
すでに車を降りている。
「あいよ」
カズはゴミを外に出さないようにそぉっとドアを開けて荷物だけ座席に置き、そぉっとドアを閉めた。
――しかし、このゴミが運転席の足元のペダルに流れていかないのだろうか?
今まで事故が無いのが、その答えだと信じたい。
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