36.それからさらに四年が過ぎたころ-チトセは千歳なのだ-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
それからさらに四年が過ぎたころ、色々な実験も順調に進んでいた。レイドライバーの試作量産機も完成したのだ。
カズは千歳との[子供]である器官を体に埋め込んで、拒絶反応をクスリで押さえていた。
そんなカズのバイタルを管理していたのが、恵美だ。
「カズくん、何処か具合の悪いところはない?」
恵美は事あるごとにそう気を遣ってくれていた。それは他人の心の機微にあまり敏感ではないカズしてみても分かるくらいのものだ。
「あぁ、大丈夫。少し貧血気味なのか、ふらつく事はあるけど」
このクスリの典型的な副作用だ。造血細胞まで抑制してしまう為に貧血が起こる。
だが、貧血より怖い副作用があるのは誰もが承知をしているところである。
「辛い事があったらいつでも言ってね」
いつもそう言って返してくる。
そんな恵美が、カズに内緒で何かをしているらしい、という情報がカズの耳に入って来ていた。
「襟坂さん、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
ちょうどお昼を摂ろうとしていた時だ。普段はなかなか時間が合わない恵美とカズが一緒に食堂で出会った。
「これからお昼? 私もなんだけど、食べながらでもいいかな?」
「もちろんいいよ」
そんな会話をしながらバイキング形式の昼食をとり分けて席に着く。カズが来ると不思議と人が遠のく。それはやはりここの[所長]だからだろうか。それとも[次は自分では?]と怯える心がそうさせるのか。
今日も二人が席に着いたあたりで、その周りにいた数人が早々に食事を切り上げて出て行ってしまう。
――まぁ、ちょうどいいんだけどね。
カズはそんな事を考えながら[これからどう会話を進めようか]と考えていた。
どうやらそれは恵美も同じようで、なかなか二の句が出て来ない。
しばらく沈黙があったあと、
「あのね」
「あのさ」
同時に声が出る。
「何だろう?」
そう言ったのは、カズだ。
「多分、カズくんが聞きたい事と私が抱えてるものは同じだと思うから、私から言うね」
恵美はそう言うと、
「完成したレイドライバー、千歳ちゃんが乗っているきみが乗る予定の機体、サブプロセッサーの搭載を見送っているでしょ? それについて話があるんだ」
彼女がそう言った通り、プロトタイプであるカズの機体にはチトセ以外はまだ載せていないのだ。なので、サブプロセッサーとの連動実験などはまだ行われていない。データ取りは、レイリアやトリシャ、クリスたちの試作量産機でのテストで賄っている状態なのだ。
「それは、そうなんだが……」
事実そうなのだからそれ以上言葉が出ない。
カズにしてみれば千歳、いや、チトセも大切な女性なのは間違いない。確かに歪んだ情欲を覚える事はあっても、チトセは千歳なのだ。
サブプロセッサーを載せていないのは、もともとペアリング自体が成功する確率が低いものなのだが、大切な女性が乗る機体だからこそ慎重にしたいと思っての事なのだ。
もちろん、候補を探しはした。
だが、適正がなかなか出なかったのもあるが、どこか躊躇のようなものが心の中にあったのは事実だ。
そんな事をしていれば普通なら[何故実験を進めないのか]と罵られるところだが、カズは所長だ。この国の中でもこの研究施設は特別扱いされている。そんな施設の、ここでの最高権力者に指図出来る者はいない。いるとすれば政府の人間だろうが、ここの研究所は政府直轄である。カズは政府中枢の人間と対等に話す事が出来るのだ。そんな彼に、実用機まで作成した彼に正面きって[何故]とは言えるものではない。
そんなカズに恵美は[何故]と言ったのだ。
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