21.この研究所も例外ではなく-同盟連合に接収されたのだ-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
実際、半島の国は既に[大陸の国々]の手に落ちた。日本に駐屯していた国もすでに撤退済みだ。日本もおそらくは時間の問題だろう。
そこで、駐屯していた国は日本の持つ技術や資源を回収に回っているらしい。経済、産業、医療、研究開発、そして、軍事。半ば強制的にそれらをこちらも露骨に、片っ端からかき集めて本国に送っているのだ。
この研究所も例外ではなく、半年をめどに移設が決まっている。
だが、すべてを移設する訳ではない。実際、日本に駐屯していた国でも今ここで行っているような、人が操縦するロボットの実験は行われている。なので、今あるセクションを取捨選択をして、必要と思われる機関のみの移設になるらしい。他は[置いてけぼり]になる。
ただ、それをハッキリとミーティングで[ここの施設は日本から日本に駐屯していた国に売却されましたからあなたたちは移住してもらいます。ですが、役に立たない人は残ってもらいます]となかなか言い出せないでいるのだろう。だから、日本人のお決まりの、長くて身のない説明を延々と聞かされる事になるのだ。
だが、上級のミーティングに出ている、それも幹部連中には伝わっている。その内容としては、三人が研究に携わっている部分は持っていかれるらしい。
つまりは[選ばれた]という事になる。そして[選ばれない]人たちの、成果の上がらない者から順に[人体実験]に回される事になったらしい。いよいよ身内から実験材料を供出するのだ。
「そっかぁ、私たちは移住なんだね」
周りに聞こえないように恵美が素直な感想を漏らす。それはそうだ[選ばれない]ものがどんな運命をたどるか。ここの研究自体が黒い物なのだから、当然内々に[処理]されると考えていい。
実際、身内から実験に駆り出されようとしているのだから。
「上はもう手を結んだみたいだよ、って俺らもその[上の人間]に入っているんだけどね」
前述の通り、カズたち三人は優れた成果を出していて、立場的にも施設の中でも上位に位置している。
「そう言えば千歳ちゃん、今回の人事で副所長になるんだって? おめでとう」
「ありがとう。これでさらに権限が付くからみんなの事を守れるよ」
カズも千歳も恵美だってそうだろう。みんながみんなを守りたいのだ。
「でも、家族は……」
そう言って恵美は言葉を詰まらせる。
日本に駐屯していた国に移住する予定の研究者たちは、日本政府が家族を保護、という形で[人質]にしているのだ。そして[日本に残るように]と言われているのだ。
これにはカズも千歳も恵美も悩んだ。
もちろん家族はかけがえのないものだ。それを人質にされればためらう心も出てくるというものだ。だが、相手政府からは[家族の事は諦めてくれ]と言われている。そう、当事国が動く前に日本が手を打ったのだ。
この頃になると日本と駐屯していた国の関係は悪化していた。それはそうだ、安保条約の一方的な反故を通達してきたその国に[あんなに尽くしたのに]という気持ちがあってもおかしくない。
急速に冷え込んでいく両国の関係。そこに研究所の接収である。それは日本政府だって黙っていない。片っ端から[保護]していったのだ。
ここで三人の心には今までにない気持ちが芽生えていた。
それは、家族より研究を優先する、という気持ちである。何も当事国から言われたからという訳ではない。
今までは微塵もなかった気持ち。
もっと先を見てみたい、この研究のその先を。その為には人の命さえ道具として扱ってきた事実がそう囁くのだ。
まるで無垢な子供がトンボの羽をむしるように。生きたままカエルの足を切って電極を埋め込んで動かすように。家族の事も[仕方ない]と思えてしまう自分たちがいた。
「もちろん何とかしたい気持ちはあるが……」
「今の状態ではダメだろうね」
カズと千歳が、詰まったその先の言葉を口にする。二人の目は以前と変わっていた。それは恵美にも言える事だ。いったんは我に返るのだが、直ぐに現実が思考を引き戻すのだ。
現に[それでいいの?]の一言も出ない。
「まぁ、向こうさんももう少し何とかしてみるって言っているし、可能性は低いけどそれに頼るくらいしかないかな」
カズがそうまとめる頃には三人とも食事を終えていた。こんな環境で、食事が普通に摂れるのだ。
そして、ガスたちがいるこの研究所は外国の、今で言うところの[同盟連合]に接収されたのだ。
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