かたりあい
「ウォータースライムいいなぁ……水やりめっちゃ楽じゃん……」
「部屋まで水桶で水を運ぶ必要もないし、一匹いるといろいろと楽だと思うよ。だから最初の一匹をウォータースライムに進化させるようにしてるんじゃないか?」
「なるほど……はぁ、早く進化しないかなぁ……」
魔物厩舎の掃除の時に水入れの中の水を入れ替える作業がある。以前は水桶を持って井戸まで往復しなければいけなくて時間もかかるし水が重くて大変だったけど、今はウォータースライムに命令して水を出させればすぐに終わるようになった。
もちろん、ウォータースライムが水を出すのに使った分の魔力を後で補充しなくちゃいけないんだけど、それは井戸の側まで連れて行って水をたくさん飲ませてやれば回復する。重い水桶を持って往復するよりはるかに楽だ。
そんな風にウォータースライムを活用している俺が羨ましいらしく、ここ数日シドの表情が暗い。自分のスライムの成長が遅いことも気にしているらしく、少しでも時間があると井戸に連れて行って水を飲ませているようだった。
ただ、シドのスライムはシドに怯えていたし、元気がなくてぐったりしていたので構い過ぎても良くない気がする。
「シドはもっとスライムと話し合いをした方がいいんじゃないか? まだ慣れてないと気がするから、一緒に遊んだりしてみたらいいと思うぞ。例えばこんな風にさ」
「うーん、そんなこと言われてもなぁ」
一仕事終えたウォータースライムを持ち上げてご褒美の魔力を与えながら、いつものようにお手玉をしてやると楽しそうな感情が伝わってくる。進化前より少し柔らかくなった体を崩したりしないように気をつけてしばらく続けてやると簡単にご機嫌になる。スライムはスキンシップが楽でいいと思う。
けれど、シドの表情は優れない。眉間にしわを寄せて目を泳がせてながら、思いがけないことを言った。
「……ソラはよくスライムと話し合えとかスキンシップしろとか言うけど、スライムは会話なんかしないだろ? ミーファもソラが言ってることはよくわからないってぼやいてたぞ」
「え?」
スライムが会話しない? そっちこそ何言ってるんだ?
「……でも、スライムが何を考えているとかわかるよな? 遊んでると喜ぶし、魔力を与えたら美味しいとか言うだろ?」
「……お前の言ってること、よくわかんねえよ……」
厩舎の床を見ながらシドが言った。
「お前が言うようにスライムに話しかけたり、遊んだりしてやっても、なんも変わらねえし。……あんな気持ち悪い化け物がどんな気持ちかなんて、わかるわけねえだろ……」
「き、気持ち悪い、化け物……?」
「…………ちっ」
それ以上何も言わないままシドは厩舎の外に出て行ってしまった。
後を追いかける気になれず、その場で立ち尽くした俺の手の中で、何も知らずにウォータースライムはポヨンポヨンと楽しそうに跳ねていた。
◆
スライムが気持ち悪い化け物。
「……そうか、そう感じる人間もいるんだな……」
俺からすると生物を襲うことがなく、適当に餌を与えるだけで喜ぶ、無邪気な食いしん坊の面白い奴らなんだが。それでも魔物の一種だし、見た目は透明な水の塊が動いているみたいに見えるし、気に入らないとか気持ち悪いって感じる奴もいるかもしれない。
「……ああ。そういう気持ち悪いって感情とかも、パスを通してスライムに伝わっているかもしれないのか」
好きとか嫌いとか、喜びとか恐怖とか、そういう感情もパスを通して伝えることはできる。
「なあ、お前は俺のこと好きか?」
寮の自室で、手元に抱えたスライムたちに聞いてみた。
――好きー。魔力好きー。美味しいー。ご飯ちょうだいー。
――好きー。水飲みたいー。井戸連れてってー。働くの嫌ー。
「はっはっは、調子に乗るなよお前ら」
ペチペチとよく弾むスライムボディを叩く。「「わーい」」と喜んでいる。振動が面白いのか俺に構ってもらえて嬉しいのか、その両方か。よくわからない生き物なのは確かだけど俺を好きなのは間違いないだろう。
こんな面白くて楽しい生き物なのに仲良くなれないなんて勿体ないなぁ、とシドたちのことを思った。
◆
「やあ、君がソラくんかい」
シドやミーファたちと少しぎくしゃくした関係になってから数日。
寮の廊下を歩いていたらいきなり知らない上級生に声をかけられた。
「……誰ですか?」
「僕は二年のエイト。一週間でスライムからウォータースライムに進化させたって噂の一年だよね?」
「……はい、そうですけど」
「そうかそうか、いやあ、優秀だね。僕は去年はひと月かかってね、クラスでもビリから3番目だったよ」
感心したような笑顔を浮かべて、エイトという上級生は近寄ってきた。
「そんな君に実は耳寄りな情報があってさ。ねえ君、魔石スライムって知ってるかい?」
「魔石スライム? スコット先生の授業で少しだけ聞きました」
【スライム進化一覧】には載っていない、けれどテイマーの間では非常に有名なスライム。
「――通称【愚者のスライム】。今まで何百人、何千人と挑んでみたけれど、結局つくることができなかった。絶対にありえないと言われているスライムですよね?」
「うんうん、さすがソラくん、よく勉強しているね」
でもね、とエイトが笑みを深めて、声を潜めて言った。
「実は僕、成功しちゃったんだ。魔石スライムをつくるのにね。ソラくん、興味あるかい?」




