結束さんの終幕
「まったく。夢オチの次ぐらいに推奨されないエンドだよね、ふーくん」
私は途中までタイピングした文字を消し、椅子の背もたれに寄り掛かる。
だけど、椅子は体重に従って傾くことはせず、私という存在に反発するかのように押し返してくる。
現れたきっかけは、本当に些細なことだったと思う。
だから、消えるきっかけも、決して劇的ではない。
端的に言えば、見えないものが見えていた、らしい。
私の『日常』は他人にとって『非日常』であるということを知った。
いや、認識してしまった、という方が正しいのかもしれない。
『異常である』と脳が判断すると、次第に私の認識も修正されていく。
他人には見えない幻の存在など、普通は見えないことを理解出来てしまった。
以来、「おかしい」「おかしい」「おかしい」というエラー信号が絶えまなく発せられ、私のちっぽけな脳みそは、私の意思に反してずっと傍にいた人を消そうとする。
次第に薄れていく彼の姿に、私はどうすることも出来なかった。
ちゃんとした名前があったはずなのに、ニックネームしか思い出せない。
彼の容姿が、服装が、笑顔が、なにもかもが思い出せない。
彼のことは、なんだって知っていたはずだったのに。
あんなにも一緒に過ごしたのに、その全てが忘れさられてしまう。
けれど、それは私が『正常』であることの証なんだと思う。
私という物語は『非日常』通して『日常』へと回帰した。
ただそれだけのことだったんだ。
「――よし」
自分で用意したコーヒーを一口含んだ後、また私はパソコンに向かう。
私の指の動きに合わせてカタカタカタとキーボードが音を立て、画面に文字が表示される。
『詳細はリプ欄によろしく』
「あぁ、違う。これだとなんか淡泊すぎる――」
また文字を消して、書きなおす。
繰り返し、繰り返し、打ち直す。
『勉強させてください』
「――いやちがう。別に勉強がしたいわけじゃないんだ。ねぇ、ふーくん」
私の中の彼に話しかけながら、何度も何度も修正する。
たった140文字以内のその言葉。
「もっとシンプルに。私の事情なんかどうでもいいんだし」
あの日、あの時、一緒にやった例の企画。
彼についての記憶はほとんど消えてしまったけど、彼と共に過ごした思い出は未だに残っている。
ザルだなんだと揶揄しても、少し嬉しそうにしていた彼の反応をおぼろ気に思い出す。
「――よし」
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み切って、私は『ツイートする』ボタンをクリックした。
『#RTした人の小説を読みに行く
#小説読むよ
あなたの小説を読ませてください』
私の物語はもう終わってしまったけど。
これからは全ての物語に敬意を込めて。
感想をつけていこうと思う。




