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結束さんの評価(設定編)

「ふーくん」


 ちょこん、とリクライニングチェアに座った結束(ゆいづか)さんが、僕の方を振り向きながら声をかける。


「ん? どうしたの?」


 僕が返事をすると、彼女は身を乗り出して小さな顔をずい、と寄せてきた。

 近づいた拍子に女の子特有の甘い香りが漂う。そして、その中に少しだけ混じる、コーヒーの匂い。


 コーヒーのお代わりかな、と思ったけれど、彼女は僕の予想とは違う質問をしてきた。


「時刻表、持ってる?」


「時刻表って、電車の?」


「うん。持ってる?」


「まあ、最寄り駅のなら。なににつかうの?」


「殺人計画を練ろうと思って」


「なんて?」


「で、時刻表トリックを使った完璧な殺人計画を練った私を捕まえるために、ふーくんが奔走するの」


「なんで?」


「『ふっふっふ、私はその時刻の電車に乗ることが出来ませんよ。ホテルのボーイに聞いてください。ルームサービスを取っていますから』――はい、この紙読んで。感情込めてね」


「いきなりなにさ……えっと、『くそう! 9時4分発の特急に乗ることが出来れば、やつの犯行を裏付けられるのに!』。なにこのひと昔前の刑事ドラマ感」


「ということで、今回は設定編をやってみようと思う」


「ぐだぐだな寸劇する必要あった?」


「と言っても、私は設定考えるの苦手だから、あんまり話せることは少ないんだよね」


「さらにぐだってきた」


「だから、『設定を考えるのが苦手な人向け』の設定の考え方をぶっちゃけよう」


「ふーん。僕は設定考えるの大好きだから、今回は僕がレクチャーしようか?」


「いいえ、遠慮しておきます」


「なんで敬語なのさ……」


 敬語のせいで妙に傷つく。


「設定で特に時間かかるのは、ファンタジーとかの現実じゃない世界の構築なんだよね」


「そう? エルフとかドワーフとか、既存の流用すればそうでもないと思うけど」


「だからって丸コピするわけにもいかないでしょ。エルフならまだしも、貨幣、流通、文化レベル、貧富の差、政治体制、その他色々あるよね」


「そこまで考えるとなると、確かに大変だね」


「でも、色々考えても、物語の都合で変える時もあるし、そもそも分からない分野があったりして、どうにもこうにも設定が進まない」


「じゃあファンタジー書くのやめれば?」


「書きたいんだよー。剣と魔法のファンタジー書きたいんだよー。格好良い詠唱したいんだよー」


 リズミカルに、ぐわんぐわんとリクライニングチェアでバネのように跳ねる結束さん。

 なかなかレアな光景だ。


「で、そこで私は思いついたのさ。――文明なんて、滅ぼしてしまえ」


「色々と大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。これがわりとまともな手法なのさ。文明を滅ぼしたり、閉鎖空間にしたりすると主人公が関わる空間イコールその世界の全てになるから、見えてる範囲だけ設定すればまるっと世界の設定が終わるんだ」


「でもそれじゃ、広がりある世界、ってのが書けないんじゃないの?」


「書きたくなったら閉鎖空間を解いたり、書きたい段階まで文明を復興させればいいんだよ。ゼロから作るから足りない部分は『あーまだ復興が間に合ってないから。ごめんねー』で済むし」


「あー……。なかなかの力業だね」


 結束さんらしいというか。


「RT企画で読んだやつじゃないんだけど、現代日本を舞台に化け物と戦う機関を描く物語があってね」


「へぇ。設定が凄かったの?」


「いや、凄いザルだったのさ。日本の東京だけ特区的に化け物が発生する、みたいな設定なんだけど、日本の政府が存続しているのに未成年がアサルトライフル使うし、味方が死んだけど実は生きてましたー、ってのやってたし。そもそも日本は銃使うの凄い大変だし、死亡したら戸籍管理のためにきちんと死亡確認して火葬するよね? 現代日本が舞台だったら」


「なんか凄い聞いたことのある設定なんだけどもしかして」


「うん。ふーくんが書いたやつ。設定がザルな例として最適かな、と思って」


「不意打ちで心を抉るのやめてくれますか……」


 というか、設定ザルなのか……。頑張って書いたのに……。


「でも、ふーくんが書いたやつも、日本政府が滅んでたらそういう細かいところまで気にしなかったんだよ」


「うーん、そういうものなのかなぁ……? でも、なんでもかんでも滅ぼすわけにもいかないでしょ?」


「確かにそうだよ。そこで閉鎖空間を使うのさ」


「さっきも言ってたね、閉鎖空間。なんかデスゲーム的なイメージがあるけど」


「デスゲームもそうだけど、ミステリーでも良く使われるよ。大雪や嵐で交通手段が途絶えるとか、帰りの便が無い、みたいな一時的な閉鎖空間を作って、『それ、警察呼べば解決しますよね?』というぶっちゃけた指摘を回避する」


「あー、確かにそうか。そう考えるとわりとメジャーな手法のようにも思えてくる」


「物語に必要ないけど、現実には存在して、その力を借りれば主人公が悩んでる事件や悲劇が簡単に解決しちゃうような機関(ノイズ)は切り捨てちゃえばいいんだよ」


「ふーん。でもやっぱり僕は設定は凝りたいなぁ」


「凝りたい人は凝ればいいよ。でも、ノイズを極力排除してシンプルな設定を作るのも、また一つの設定作りなのさ」


「物は言いよう、か」


「ザルな設定作るくせに悟ったようなことを言わないの」


「……ぐぬぬ」


 ザルだと自分で納得してしまったが故に、言い返せないのが辛い。


「それじゃ、今日は設定訓練として、時刻表殺人トリックを作るの一緒に考えよう」


「それ本当に訓練だよね? リアルな殺人計画じゃないよね?」


「リアルにやろうとするわけないでしょー。……あ、『殺す対象』は私に決めさせてね」


「なんでかっこで囲んだの。ねぇ、不穏すぎて怖いんだけど」


「大丈夫大丈夫、ふーくんは最後に取っておくから」


「そんなデザートみたいにっ!?」


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