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属性?

 「――宗田さんっ!」

 沈んでいた意識がゆっくりと浮かび上がると、薄ぼやけた視界に、彼女の顔が見えた。

 その表情には陰が差し、触れれば壊れてしまいそうなほど弱く見えた。

 視界が次第にクリアになると、ようやく言葉を思いつく。

 

 「……あれ? 俺?」

 「急に倒れたから驚きましたよ。しかも、全然起きなくて……」

 唯が状況を説明すると、宗田は気を失った時のことを少しずつ思い出していく。

 彼女が一息、息を吐き出すと宗田から離れ俯いてしまう。

 「まさか、こんなことになるなんて。心配かけたね」

 宗田がゆっくりと上体を起こし、声をかけた。

 唯は顔を上げず、下を向いたまま。

 その様子を見て、宗田は胸の中心が締め付けられ、慌てて唯に言葉を投げかける。

 

 「本当に大丈夫だからさ……言ったでしょ。二人でって」

 宗田の言葉に反応を見せない。

 「これで……宗……もの」

 唯がぼそりと何かを呟いたが、宗田は聞き取れなかった。

 聞き返そうとするが、彼女の口が薄く笑みを浮かべているように見えて、背中の神経がぞわりと波を打つ。

 宗田が上手く言葉にできないでいると、唯が顔を上げる。

 泣き腫らして赤く腫れた瞼の奥には、不穏な影は何もなかった。

 唯の喉が動く。

 

 「……はい。ちゃんと二人で、ですね」

 彼女の笑顔に見惚れそうになる。

 さっきのは気のせいだと、宗田は頭の片隅に追いやりまっすぐにこちらを見つめる唯に少し照れくさくなった。

 視線をわずかに下に落とすと、膝の上に置かれた手が目に入る。

 

 まだ落ち着かないのか、手のひらで膝の頭を何度も擦っていた。

 それを見て宗田の手が自然と伸びる。

 じんわりとした唯の温もりが指先を伝って、心臓の鼓動を速くした。

 無言のまましばらく握っていると、身を捩るように動いた唯が声を上げた。

 

 「あの……宗田さん、手が……その」

 唯の言葉に慌てて手を引っ込める。

 お互いに別々の方向へ顔を逸らすと、甘ったるい部屋の空気に余計に気まずくなった。

 しばらく、お互い口を閉じていたが、時間が経つほど気まずさが増していき、腕を擦ってみたり、咳払いしたりと落ち着かない。

 

 また、お互い無言になる。

 静けさだけが部屋の住人になったかのように、宗田達は身動きできないでいた。

 

 不意に我に返ると、ここまでの出来事が頭の中で蘇る。

 激痛に気を失い、起きたらゾンビに人が食われてた。

 アパートがどうしてか――静かすぎる。

 

 ――本当に一日しか経ってないのか?


 宗田はゆっくりと立ち上がり壁に耳を当てた。

 唯はそれを不思議そうに眺めているが、なにか言ってくることはない。


 「音……聞こえない」

 住人はどこに?

 仮にゾンビパニックなら、もっと外も騒がしいと思う。

 時間の感覚すらズレているのだろうか。


 耳を離すと、顔を唯に向ける。 

 変わりゆく日常の中で、目の前の彼女だけが形を保っていた。

 かけがえのない過去の記憶となった彼女に、吸い寄せられている気がする。

 それが、心の支えで自分の命なんかよりもっと重い。

 彼女を守ることが使命、そう思えるくらい大切だった。

 

 でも……もし、唯がこの世界に殺されるくらいならば――自分の手で……

 侵食されるように指先がぴくりと動き、染み一つない唯の首元に目が吸い寄せられる。

 腹の奥にどす黒さが増していく感覚に、心の中の自分が慌てて首を振ってそれを否定した。


 「本当に、静かですね」

 唯がキョロキョロと周囲を見回すが、世界にゾンビと自分達しかいないと間違えるくらいに静寂しかない。

 

 アパートの数部屋は開いていたと思ったが、隣には人がいた。

 中年の男。

 どこに行ったんだ?

 

 それからもしばらく無言の時間が続き、唯がわざとらしく咳払いをすると、「あー」っと変な声を上げてから、言葉を紡いだ。

 「そ、そう言えば、なんで倒れたんでしょう?」

 耐えきれなくなったのだろうか、唯が唐突に話題を変えてきた。

 

 いつものじゃれ合いは身を潜め、まださっきの余韻を引きずっているようで、彼女の声は上ずっている。

 ここで敢えて触れるのはどうかと思い、宗田はそのまま会話を続けることにした。

 

 「あ、これはMP……魔力が切れたって奴じゃないかな? ちょっと代償が大きすぎるけどさ」

 「確かにそうですね。使いにくいかもしれないです。今は、体調は大丈夫です?」

 「少しだるいけど問題ないかな? 時間経過で回復してるのかも」

 なんとか甘い空気から脱出して、真面目な会話に話題を変えることができた。

 

 今はまだこのままで……。

 落ち着いたらそう言うことを考えるかもしれない。

 でも、こんな訳のわからない世界でどうやって生き残るか……それを優先したいと思う。

 だから、強引に話題を変えた。


 それが功を奏したのか、唯が食いつき自分の指先をみつめた。  

 「私も使えるのかな? 試してみよう。――イメージは火よ」

 唯の声が揺らしたのはランタンの光と、今ので冷えて寒くなった空気だけだった。

 しんと静まり返った空気に耐えれないように、耳元が真っ赤に染まる。

 それを見ると、宗田の中の意地悪と言う悪魔が角を生やし始める。

 

 「――ぷぷっ」

 あ、口から声が出ちゃったみたい。

 その瞬間、唯の黒目が鋭く射抜いてきた。

 「嫌い。嫌いすぎます! 大っ嫌いですよっ!」

 彼女のいつもの反応に盛大に吹き出した。

 自分の魔法を見せてやると言わんばかりに宗田が胸を張ると、適当に思ったことを口にする

 「唯もまだまだよの~。――イメージは”コップ一杯の水”」

 青い幾何学模様がコップの口に現れると、回転しながら明滅を繰り返した。

 そこから湧き出るように水が湧き出て、あっと言う間に中を満たしてしまう。

 

 「え? マジで……できちゃったよ」

 どうして?

 水の量もちょうど思っていた通りにコップにみたされていた。

 上手く使えば水問題も解決できるかもしれないが、問題は魔力のほうだろう。

 今のだけでも、ごっそり何かが体の中から消えていく感じがした。

 火を出し続けてたよりはマシだが、試しに別のをもう一度やってみる。

 電気属性はどうだろうか?

 

 「――イメージは”静電気”」

 指先から放たれた閃光は唯の瞳を潰すのにちょうど良く光ってくれた。

 「――きゃっ! 目が、なくなるー」

 両手で目を隠して唯は悶えるように床に転がった。

 それを見て面白くなり、もう一度使おうとしたが、頭にピリッとした違和感を覚える。

 まるで、それ以上は危険だと本能が警告しているようで、伸ばした腕を下に下げる。

 

 「もう、酷い目に合いましたよ」

 悪態を吐きながら唯が起き上がった。

 「まさか本当にできるとはね。神崎さんは……残念な結果になったけど」

 「まだ、言うなんてイジワル魔王ですね」

 文句を言いながら言葉を続ける。

 

 「そう言えば、魔法もそうなんですが、水道とかはどうなんでしょう?」

 そう言えば試してなかったと思い、キッチンに向うと蛇口に手を伸ばした。 

 捻り試したが、乾いた金属音が鳴るだけで、そこからは何も出ることはない。

 「……どうしましょう」

 「あー、飲み水はしばらく大丈夫。浴槽にも溜めてあるから、トイレの時はそれを使えばいいし、食料もある」

 「でも、あまり長く引きこもるわけにはいかなそうですね」

 困ったように唯が言う。

 この世界を知れば知るほど、追い詰められている気がした。

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