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Case:2 - 東横界隈女子/飛び降り補助

「... うん、 辛かったよね、痛いよね、俺もだよ」

『 もう死んじゃたいな... 』

「... 会って話そうよ」


深夜の住宅街の公園は、静まり返って不気味だった。けど、治安が良いだけあってホームレスや暴漢は少なく、こっそり家の窓から抜け出してきたお客様との夜の逢瀬にはぴったりだった。オキャクサマとは、SNSでの病み垢界隈で通話友達になった、僕が見込んだ『流行りに乗って死にたがるターゲット』だった。


ここ何日も続いた彼女との通話は、根気がいるものだった。ファッションメンヘラの話は基本生産性も無く、知識もなく、ただただつまらない。オチも詳細も品の良さも冗談も何もかもが欠けた会話を、本気で楽しめる人間が多く存在することが信じられない。


正直効率最悪なターゲット層の選択および宣伝スタイルなのは百も承知だ。何か新しい策を考えたほうがいい。それでも僕は、殺人でも復讐代行でも、はたまた普通のバイトでもなく『自殺ヘルパー』に拘った。


むかしからの夢だった。


大きくなって、脳が発達して、知識も増えて、常識や法律を理解しても道徳心だけは育たなかった。それで報われるのは御伽噺だとすら思った。


人を助けることが美しいのか?

なら、僕が手掛けるこのサービスだって人助けだ。

暴論なのは百も承知だけどさー。


お金が欲しい。

それは事実。


でもそれ以上に、これが僕の趣味だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お酒と眠剤、効いてきた? 」

「んんんだいぶぽわぽわしてきたぁ〜... これなら落ちるときもぉ、こわくないかもにぇ〜... 」

「... 支えるからしっかり歩いて。 」


ラリってる。なんだろうねー、この低脳丸出しな喋り方。僕あんまりおバカキャラは好きじゃないんだけどなー? イラついてきたけどプロフェッショナルなんだから感情は最後まで隠し通さなきゃね。


「もうすぐ着くよ、階段登れる? 」

「んにぇええぇ、、、かかえてよおぉ」

「我儘言わない。 」


このクソ女の依頼内容は『飛び降り自殺の補助』だ。本人は一度試した時怖くて足が竦んで、一晩中ビルの屋上フェンスの外側の縁に座りこんで動けず、結局管理人に見つかって補導された過去がある。


そこで、トー横で流行りのODの出番だ。


眠剤とアルコールのダブル摂取で理性を失う直前まで『酔う』。僕の仕事は、酔ってラリってフラつきまくった彼女を自殺名所な某ビルに連れて行くこと。送り届けて、必要があれば彼女の背中を押してあげる。まさしく『一押し分の勇気』を提供するわけだ。もし彼女がひとりでできたら、数分後に地面に落ちてきたぐちゃぐちゃのナニカが彼女かどうか判別すればいい。



「... 着いたよ。 」

「あえ〜? もうぅ? はやぁああ〜」


... 突き落としたい。今すぐに。

でもまずは彼女に最終確認をしないと。


「本当にいいんだね? 」

「きゃはっっ うけるうぅう 今なら空飛んで着地できちゃうんですけどぉぉ」

「... かしこまりました。 それでは自殺ヘルパー料金48931円になります。」


楽な仕事だけど金払いはいい。

彼女たちのような少女の金の出処は、簡単に想像がつく。けれどおそらく、彼女達は若さで短期的に大金稼ぐ分、金遣いは荒く、価値に無頓着になる。

僕のお客さんのメインターゲット層になりつつある。


前回のトー横客からは『小銭数えるのダルいから〜』という理由で丸々5万もらった。どいつもこいつも、僕のシャレた金額設定丸無視じゃん。やっぱ端数は用意めんどくさくてウケが悪いのか? ?僕ぺぃぺぃもやってるよ?


「んあぁ、 まってぇいまかぞえらんなぁい から、bこれあげるうぅ」


... 同ケースだったようだ。

僕としては、仕事の後買いに行く夜ご飯を少し豪華にできるので文句はない。


万札を5枚押し付けたあと、少女はフラフラと屋上の縁へ歩いて行った。このままだと普通にバランス崩して落ちるだろう、僕の助けなんて1mmもいらなかったんじゃないか? ただ彼女は酒と眠剤に頼ればよかったのだ。


それとも、僕が階段を登って同伴した事が重要だったんだろうか。


「...やっぱ、 こわぃなぁ」

「...」

「しぬの... こわぃ... っ!!? ?ああああぁあぁああああやだぁあああああっ」



絶叫しながら汚く潰れた彼女をちらっと見て、ひっそりと夜の繁華街の人混みに紛れて逃げた。



代金を受け取った時点で、撤回させる気はなかった。そもそも金銭のやり取りが完了した時点で、やる事やらなけれは僕が契約不履行になってしまうじゃないか。僕の中でそれは許されないことだった。



不快にゴムの匂いを発する安いラテックス手袋から手を抜いて、丸めてジーンズのポケットに突っ込んだ。帰って寝て、翌朝の清掃ボランティアの際に捨ててしまおう。トー横の住民は深夜帯に生活するせいで、仕事も深夜にやる羽目になった僕は、すっかり遅くなって人気のない住宅街を、ひたすらに歩いていた。



まさかその後、あんな形で、思いもよらぬ出会いをすることになるとは。




次回、復讐代行少女初登場です。

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