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【二話 灰色の初めての訓練と筋肉痛】

「ウーサーも杖を使わずに歩けるようになったから、そろそろ次のステップに移って貰おうか」

「はい?」


物凄く良い笑顔で父は、この二年でやっと杖無しで歩ける様になった息子を、普通に強い騎士でも裸足で逃げ出す程拒否をすると言われる、キツイ・厳しい・危険の3Kで有名な騎士団の訓練へ躊躇なく放り込まれた。

ウーサー五歳の春の事・・・・。


まぁ、彼も人間の体に早く慣れる為、寧ろ最短で戦う術を学べるならいいかなと、それに五つ上の兄も其所で鍛えられていると聞いたので、特に文句は言わず素直に従った。


だがしかし!ウーサーと彼を通して現世を視ている【ナマモノ】と騎士と従者達全員知っている。

父王がウーサーを騎士団に放り込んだ本当の理由は、



ウーサーのリハビリに付きっきりだった母・妃とイチャイチャしたいからだ!

もう一度言う!イチャイチャしたいからだぁっ!!



おい・・・おいっ!!!!

そんな理由で歩けて間もない幼い自分の息子を、ヤベェ所にやんなよ!!

と、誰もが思うよねぇ・・・・・。

でも、相手はウーサーを荒れ狂う濁流の川に投げ込もうとした、とんでもない王。


愛しい妻と二人きりになる為なら、例え幼い息子達でもどんな危険な場所(但し死なない程度)でもポイっと放り込む父親。


・・・・・説得力はないかもしれないが、一応息子達も可愛いがる(意地悪したい)位は愛しているみたいだけど、正直そうは見えないわぁ・・・・・。


まぁ、あの妻溺愛の父王にしては結構我慢した方だと私は思う。

だって、かなり妃の"罰"が堪えたようだったからね。


実は皆に黙ってウーサーを連れて、激流の川にポイしようとした事が妃にバレた。


盛大にキレた。


それはもう風もないのに自慢の銀色の髪(プラチナブロンド)が彼女の放つ怒りの黒いオーラでブワリと揺れたと思ったら、一瞬で城中を覆う程とてつもないもの。

本当に一瞬の事だったけど、黒いオーラに当てられた無関係な人間と、城に住み着いていた妖精達はバタバタと倒れた。

なんとか立っていたのは、原因である父王と長年連れ添った宮廷魔術師のエムリスだけだったよ。


ついでにその様子を見ていた【ナマモノ】は気絶はしなかったけど、暫くガクブルと震えどっかの隅っこで縮こまっていたよ。

【ナマモノ】曰く、二度とお目にかかりたくないオーラだ・・・・、と言ってたけど、残念ながらウーサーのサポートする限り、それは叶わないんだけど・・・・・。


そんなキレた妃は可愛らしく小首を傾げ、とてもとても素敵な笑顔で王に一言。



「一週間、貴方の存在全てを無視します」



当然だが水宝玉(アクアマリン)の瞳はまっっっっっっっったく笑っていなかった。

流石の父王も不味いと思い謝ろうとしたが、時既に遅し・・・。

宣言した通り、もう彼女は王の存在ごとまるっと無視(スルー)した。


それはもうキレイで見事な無視(スルー)だったよ。

妃を溺愛している王が、僅か半日で根を上げたのは言うまでもない・・・・。

因みに彼女は王をどんな感じで無視(スルー)していたのかと言うと、


・妃に謝っても聞く耳持たず(というか聞こえていない)。

・触ろうとすると華麗な動きでそれをかわし、身体処か髪一本も一切触らせない(かわしているとは分からない程素晴らしい動きだった)。

・就寝の時は息子達の部屋に魔術で結界張って一緒に眠る(息子達が父王の話をすると誰その人?と言われた)。


他の人はいつも通りに接しているハズなんだけど、妃が完全に無視(スルー)しているせいで皆、王が幽霊になったのではないかと錯覚しそうになってたね。


そんな妃の(王にとっては)死刑宣言から一週間、王は表では飄々とした振る舞いをしていたけど、哀愁纏ったオーラと顔色は青く頬が少しやつれていたから、参っているのがバレバレでした。

無視(地獄)からやっと解放&許された王は、それはもう、人の目を気にせず妃に思いっきり抱きつき、咽び泣いた・・・・・。


そんな二人に初めて見る夫婦喧嘩(?)と王の変貌ぶりに長男と【ナマモノ】は青褪めドン引き、次男(ウーサー)は戸惑い父の事(特に頭)を心配してた。

ただ、エムリスを中心に騎士達と従者達だけはコレには慣れているのか、通常通りに働いていた。

と言うか、皆自業自得だと思っているので、罰を受けている最中は誰も王を庇う者はいなかったとか・・・・・。


とまぁ、そんな事があり、暫く王は息子達には無茶振りはさせなかった。

そんな事したらまたあの悪夢(存在ごと無視)が起こるからね。

妃が怒らないギリギリの範囲を見極めた上、ウーサーを例の騎士団に放り込んだのさ。

それでも結局怒られてるんだけどね!

まだ五歳の子供をそんな所に放り込んだんだから当然か・・・。


さて、王の面倒臭い一面の話はコレくらいでいいか。

じゃあ肝心のウーサーが放り込まれた騎士団の話をしよう。

さっきも話したけどその騎士団は、訓練がとてつもなくキツイ・厳しい・危険の不穏な3K揃いの所だ。

しかーし!騎士の一人一人が鉄壁城砦並みの耐久力と幻想の怪物等と渡り合える力を持つ最強の騎士団だ。

最強と言うのだから当然、彼等の訓練が普通の騎士団のレベルとは訳が違う。

肝心のその訓練の名は───



"最強騎士を目指す皆集まれ!ヤベェ魔境で楽しくレッツ強化訓練っ☆~さよなら人間!ウェルカム人外!!○○○編~"



という、長い上センスゼロのとんでもねぇ名前の訓練だ!

それと○の部分には、"お散歩"、"ピクニック"、"ハイキング"、"サバイバル"、と四段階のコース名が入るそうだ!

どれも普通の人間のやる訓練とはほど遠いレベルの厳しく・キツイ・えげつないもの。

やる場所も普通の訓練場じゃなく、入ったら二度と戻れないと噂される森で一ヶ月以上キャンプとか、何人もの人を喰らう魔物達のいる川で討伐がてら水泳の訓練、凶悪な竜が凄む洞窟で松明を持たずに肝試し的なものなど、どれも洒落にならない危険度MAXの場所で行うものなのだ!


そんでもって今回ウーサーが挑む訓練コースは、騎士になった際必ずやらなければならない"お散歩"編。

とある広大な荒野でのマラソン大会的なものを行う。訓練期間・指定された距離を完走出来るまで、ただそれだけ。

内容は本当にそれだけだが、訓練場所は普通であるはずがない!


其処は異常な数の悪霊達がみっちり・ギッチリ集まっている黒い荒野。

ソレらが発する瘴気でまともに呼吸が出来ない上、荒野を駆け抜ける途中で悪霊に取り憑かれ身体の自由を奪われかけ、中々前に進む事が出来ない。

でも監督である団長曰く、()()()()()()ものだそうだ。

これは瘴気に耐性を付ける為の訓練なんだそうだ。


今のブリテンは各王が治める『国の中』以外を除けば、ほぼ呪いと瘴気で溢れている魔境の島。

そんな島では現在戦争真っ只中のその島で日々領土拡大の為、自国の外に出て他国に戦を仕掛けたりする国、領土を奪われまいと国境の守りを固める国が多々ある。

その国全ての共通点は必ずその瘴気で渦巻く大地を進んでいかなければならない。

そして、それは国を守るに徹してるウーサーの国も例外じゃない。


領土を広げる、故国を守る為騎士を目指す者達は少しずつ外の瘴気に慣れる必要がある。

だから新米の騎士達は訓練場の国の外に近い場所にある、外程ではないけどある程度瘴気の濃い黒い荒野で鍛えるのさ。


いずれウーサーも戦場───【アヴァロン】を殺す為、過酷な戦いに身を投じなければいけない。

だからこれは人間の身体に慣れるのが早くなる上、鍛える事も出来る正に一石二鳥のものなんだ。


ただここで心配な事が幾つかあるんだ。

それは知っての通り、彼は最近やっと杖無しで歩ける様になったばかりだから、まだまともに走れない。

更に人間初心者・五歳児の平均以下の体力しかないウーサーにはかなりキツい、というか完走出来るのか心配なんだよ。



* * * * *



お散歩編:訓練一日目───


「・・・うぬー・・・・・・」

「・・・・・ウーサー、大丈夫か?」

「うぅ・・・・・あ、あしが・・・・ガクッ、ガク、しま・・・す。あ、と・・・・・・・きもぢ、わるぃ・・・で・・うぷ」

「吐くなよ!?絶ッッッッッ対ッ!!吐くなよっ!!!!?」

「・・・ぬー・・・・・・」


案の定スタート地点からたった数メートル歩いただけで力尽き、()が心配で一緒に参加していた、4つ年上の兄におんぶされてる姿があった。

ウーサーの胃の調子を気にしながら、なるべく振動が来ないように慎重に走っている。


因みに兄は、"ピクニック"編の訓練を受けているので、このマラソンは弟を背負っていても余裕で走れる。

そんな二人の周りには、ウーサーと同じく初参加し途中で力尽きたか、瘴気にやられたか、大量の悪霊に憑かれたかで地に伏した新米騎士の屍がゴロゴロと転がり、かなりシュールな光景が広がっていた。


「(俺もちょっと前はこんな感じだったな・・・・・。

ここかなりデコボコした土地だから走り辛いし、障気で視界悪いし、空気重いし、悪霊はしつこいから中々離れないから結構きつかったなぁ)」


と、兄はちょっと前の自分を思いだし黄昏れるが、ふとある事に気付く。


「(そういえば、ウーサーには全然悪霊が憑いてないな。父上が念のためエムリスに護符か何かでも作って貰って渡したのか?)」


あの父の事だ。容赦なくこの訓練に弟を放り込んだが、やっぱり母を怒らせるのは、不味いので団長に言ったのだろう。

そしてあの団長も母が恐いからあっさりと受諾したんだ、絶対そうだ。

だって皆あの母のブラックモード(命名:父)は目茶苦茶恐いんだよ!


と、あのブラックモードの母を思い出し青ざめた時だった。

グロッキー状態のウーサーが、


「・・・・・にいさん・・・も、うちょ・・っと、ゆっく・・・・り、はし・・・・う゛っ」

「ウウゥゥゥゥサアアァァァアアアアア!!!!!!!!」


ウーサーを背負った兄は無事ゴールした。

彼の服と父と同じけど少し明るめの黄金色の髪がどうなったかは団長と彼等より先にゴールした新米騎士達と様子を視ていた【ナマモノ】のみぞ知るのみ・・・・・。



───お散歩編:訓練二日目。


「・・・・・全身の、筋肉が、バキ、バキして、痛い、です」

「筋肉痛だからな」


筋肉痛になり、スタート地点に来た所でべしゃりと倒れていた。

それでも真面目な彼は這って進んだけど、やっぱり数メートルで力尽き、結局見守ってた兄に回収されおんぶされていた。

この日を含め四日間は筋肉痛と戦いながら訓練に挑んだけど、ゴールまでには至らず。

今回もウーサーの周りには悪霊は憑いていなかった。


【ナマモノ】は、こんな調子で彼は本当に目的を果たせるのかなぁ、と再度心配になってきたのであった。



───お散歩編:訓練六日目


「兄さん、私は大丈夫ですよ。筋肉痛も治まりましたし、私の事は構わず兄さんは先に行ってください。夕刻までにゴールに辿り着かないと、また夕食食べ損ねちゃいますよ」

「バカ、そんな心配しなくても良い。お前やっと少し走れるになったばかっりなんだぞ。

それにまだそんなに体力ないし"発作"も治ってないんだ、途中で倒れるのが関の山だろうが」

「むー・・・・・」

「むくれてもダメだ。

もし、これでお前が悪化してリハビリ逆戻りしてみろ・・・・・・・・・母上が、キレる、コワイ」

「あ、そっちが本音ですか。じゃあ、()()()()()()()・・・・・」


と二人の先に、走るの止めて様子を伺う新米騎士達と団長がいる。

気のせいじゃなければ、全員顔の色が悪く見えた。ガタガタ震えている者もいた。

地獄の訓練を受ける度胸のある騎士達でも恐いかあのお妃様は・・・・・。

まぁ、あのお妃様だから仕方ない。いや本当に・・・・・。


「ゴホンっ!これで間に合わなかったら、後でこっそり厨房に行って食べ物取ってくればいいんだからさ」

「ふふ、兄さん悪い子ですね」

「厨房長に怒られたってなんてことないさ。

それ以上にお前に何かあった時の、母上がキレるのよりなん万倍もマシだ」

「「「「「(うんうん)」」」」」

「・・・・・兄さん」


今日も兄の予想通り途中で力尽き、ゴールは出来なかったが相変わらずウーサーには悪霊は憑いていない。

この時からか、ウーサーは悪霊の方を視て何かを考える様になるのだが、その答えは訓練十五日目に分かる。



───お散歩編:訓練十五日目


"走る"という動作に段々慣れ、少しずつペースが早くなり体力も付いてきた。その証拠に走る距離も長くなったね。

ただ、この頃になると大体の人間は完走出来ているんだけど、幼い・病み上がり・歩き立てだったウーサーは、今だ完走出来ていない。


“訓練は完走したら終了”


だから今日も彼と同じく完走していない騎士達+保護者(ウーサーの兄)は荒野を走る───のだけど今日はなんかちょっと様子が違うみたい。


「ウーサー、一つ聞いていいか?」

「なんです?」

「その袋何だ?」

「?袋ですよ?」


お兄さんが弟の右手に持っている袋を指差す。

白い布で何の変哲の無い普通の袋───モゴモゴ動いている以外は普通の袋だ。


「あ、うん。袋は普通だな。


じゃあ、その袋の中に()()()()()何だ?」


動きからして小さいモノが入っているみたいだ。しかも複数。


「さっきスタート地点に来る途中に捕まえた黒くてバッチイ何かです」


兄は嫌な予感がした。


「黒くてバッチイ何か?」


黒くてバッチイ何かには心当たりがある。

しかしついほぼ反射で返してしまった。


だが、後悔してももう遅い。


聞きたくないけど、聞かないと話は先に進まない。


答えはもう分かっているし、たぶんそれは悲しい事に当たっているだろう。


「アレです!」


ウーサーが元気良く小さな指を指すその先には、フヨフヨと浮かぶ悪夢が・・・・・。


「やっぱりかーーーっ!!それ悪霊だぞっ!?

どうやって捕まえたんだっっ!?」

「どうってって、こうやって・・・・・」


丁度真横にいた、今日最もついてない何人目かの哀れな骨の悪霊は、頭をガシッと掴まれ、ウーサーにあっさり捕まってしまった。

そして────


「捕まえたら丸めます」


自分より大きい悪霊の頭を団子を作るように、小さな手を一生懸命動かし丸め始めた弟。

丸められていく悪霊は最初はバタバタと抵抗したものの、何故か全くウーサーの手から逃れられない。

そうこうしている内に悪霊の体は小さく丸められ、動きも弱弱しくなっていった。

そして最後には微かだが何かの断末魔を上げ、丸くて小さな黒い塊になってしまった。


「始めは皆大きいからこの袋に入るか心配だったんです。

でも前にエムリスさんがイタズラで作った泥団子を思い出して、試しに小さく出来るかとやってみたら、この通り簡単に出来ました。

これなら沢山袋に入れられます!」

「「入れられます!」じゃねーよ!

お前何とんでもないことしてんの!?

ソレ結構凶悪な悪霊だぞ!!何ともないのか!?」

「わわっ」


人間の精神・肉体に害を及ぼす程の悪霊の瘴気を、何の対策もなく触れたりでもしたら穢れで皮膚が爛れ、腐り落ちてしまう。


言うの忘れたけど、この訓練では浄化専門の魔術師が訓練する全員にある程度術を施しているから死にはしない。


ソレを何故か簡単に素手で捕まえ、あろうことか丸めてお団子()して袋の中にポイするなんて、正気の沙汰じゃない。

兄はそれはもう、血相変えて弟の両手を強引に掴み、見たんだ。


「・・・・・・・・・なんとも、無い?」

「?何がですか?」


ウーサーの手は転んで出来た傷以外を除けば、普通に健康でキレイな手だった。

瘴気で爛れても、呪われた気配も無い。


「(??これもエムリスが何かやったのか?)」


短時間でショッキングな事が目の前で起き、頭が着いていかない。周りも何が何だか分からない様子。


それでも何とか状況を整理しようと頭を動かす彼等。

たがその努力は空しく終わる。

この中で一番若くて幼い天然(災害)少年が、情け容赦なく今度はとんでもない破壊力を持つ爆弾を無慈悲に、しかも連続で落して来るのだ。


「あ、もしかして触ったら手が荒れるとかの事ですか?それなら大丈夫ですよ。

昨日も丸めて綺麗な川で洗いましたけど、全然手荒れなんてありませんでしたから!」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

「ここに来てからずっと、気になってたんです。それに何か黒くてバッチイからなんですか、変な臭いしますし・・・・・」


バッチイと言われた上、変な臭いすると言われてしまい、何となくショックを受けオーラが微かに哀愁が交じっている悪霊達。

・・・・・何気に気にしてたんかい悪霊の癖に。


「直ぐに洗いたかったんですけど、体がまともに動かせなくて本当に歯痒かったのです!

でも最近少し体力に余裕が出来たので、昨日やっと洗うことが出来て嬉しいです!

凄かったですよ!ちょっと手揉みで洗っただけで黒い汚れが、ドバァ!って出てきたんですから!」


余程気になる汚れ(?)が洗えて嬉しかったのか、目茶苦茶興奮ぎみに語ってるよこの子。

てか、黒い汚れってソレお前、瘴気と呪いのミックスされたヤバいもんだよ。

けっして、埃や泥で出てくる黒い汚れじゃないから!


「でも、やっぱり手もみ洗いだと時間が掛かるから体力が持たないんですよね。

汚れの方も完全に落ちないし・・・・。

だから、今度は侍女長のアンさんから貰った、良い洗濯板でゴシゴシ洗おうと思います!」


と、今度は洗濯板で悪霊を洗うと意気込んでいる弟の言葉に、誰もツッコミを入れる様子は無い。

次から次へと発射される爆弾発言のせいで今だ思考を回復する余裕がないのだ。


唯一早く回復できたのは別の所で見守っている【ナマモノ】だけ。

さっきから「悪霊って洗えるの!?」とか

「洗濯板で洗うもんじゃないからねソレ!!」、

「ウーサー君が別の何かにジョブチェンジしようとしてる・・・・・」

など色々ツッコんでいるが、残念ながら現実で支障が出るといけないからと会話を遮断された。

【ナマモノ】の渾身のツッコミはウーサーに届かなくなった・・・・・。


「あ、兄さん」


侍女長から教わった洗濯の極意を熱く語っている時だった。

ウーサーの視界に、一人の空気の読めなかった髪の長い女の悪霊がのこのこ入ってきた。


兄の若々しい生命力に引かれたのか、左の肩にベッタリとくっついた。


・・・・・気のせいか、息が目茶苦茶荒い。


この女、目の前に物理で自分と同じ悪霊を浄化する、得体の知れない恐怖の五歳児(ウーサー)がいるのに本当何やってんの?


まぁ、多分自分の好みの少年に取り憑けたから、興奮して周りが見えて無かったんだろうけど・・・・・。

案の定、ウーサーの視界に入ってしまった女の悪霊の至高()の時は、兄さんに取り憑いて僅か十秒で終わりを告げる。


「肩に憑いてますよ」

「!?」


恐怖の五歳児(ウーサー)が容赦なく女の髪をグワシと掴み、女の悪霊をお兄さんからひっぺがした。


丁度この時、もう最悪と言った方が正しいか・・・・・。

お兄さんの意識が現実から帰ってしまった。

そして、視てしまう・・・・・。


べりっべりべり・・・・・・べちゃ・・・・・


引っ張った表紙に女の髪と顔の皮がずるんと剥けた瞬間を・・・・・。

剥けた箇所から赤黒い血で染まった表情筋、左の頭が潰れていたせいでその中身がモロにどアップで。

嬉しくないおまけに鼻を覆いたくなる程の腐敗臭もついてきた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



目の前でグロでショッキングなモノを見てしまった、哀れな兄(の精神)は、今度こそ弟の手の届かない所に逝った。


はい、要するに気絶ですね。


「あれ?兄さん?」

「殿下ーーーーーーーーーーーーーー!!」


兄と同じく現実逃避していた、騎士達の意識は彼が気絶した事により遅れて回復。

慌てて彼の元に駆け寄るが、



「あ、ちょうど良かったです。

あなた方に憑いてるのも取っちゃいましょう!」

「「「「「え?」」」」」



────黒みがかった灰色の空の下。

今日の過酷な訓練はいつもと違う。

悪霊の絶望とちょっと哀愁が混じった断末魔と、騎士達の恐怖の悲鳴が日が沈むまで荒野に響き続けた。


当たり前だがその日の訓練はウーサーの善意ある行動(暴走)により、中止になった・・・・・。


ちなみに彼が訓練をクリアできたのは、そのニヶ月後。

その頃にはあの黒い荒野はすっかり悪霊がいなくなり、代わりに白くて小さな丸い何かが彷徨くようになったとか。

おまけの後日

白くて手のひらサイズの小さな丸いツルッとした何かを見せる。

「兄さん、これがこの間捕まえて洗った元黒くてバッチイモノですよ」

「だから悪霊だって・・・・・て、え?コレ本当に悪霊か?」

「はい!洗ってちゃんとキレイになりました!」

「・・・・・マジかよ」

「キレイになったのは良いんですが、洗っている途中で段々縮んでしまって、こんなに小さくなってしまいました。何ででしょう?」

「さ、さぁ?お前の洗い方が雑だったとかじゃないのか?」

「やっぱりそうなんでしょうか?ちゃんと、侍女長のアンさんに丁寧な洗い方を教わったのですが・・・・・。そういえば、洗っている途中バッチイのから変な音?声?がした気がします。思えばあれは洗い方が雑だったから発したものなのかもしれませんね」

「ソウダナー・・・・・・・・・・・・」

お兄さんは見てしまった。

ウーサーの手のひらにいる白くなった元悪霊が尋常じゃない位、震え何度も「ごめんなさい」「許して」「洗濯板は」「ゴシゴシゴシゴシ」と繰り返し言っているのを・・・・・・・・。



【ナマモノ】

「この訓練が切っ掛けで、ウーサー君:ホラータイプが爆誕。

彼は色々な忌み地に訪れては、身に付けてしまった・浄化(洗濯)スキルを余すなく使いまくり、最適な訓練場を次々と潰していくのでありました・・・・・」



ウーサー君:ホラータイプの話は別の機会に書きたいですね!

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