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第1話:雨の音と、消えない後悔

言葉は、時にナイフよりも深く人を傷つけます。

そして最も恐ろしいのは、そのナイフを振るう相手が、いつも「一番傷つけたくない人」であるということです。

あの雨の夜、僕がプライドを守るために吐き出した言葉が、彼女の未来を奪うトリガーになるなんて、思いもしなかった。

「もういいよ、エドなんて大嫌い」


 耳の奥で、アヤノの最後の言葉が何度も何度もリフレインしている。

 ピピッ、ピピッ、と無機質な心電図の音だけが響く白い病室。酸素マスクをつけ、たくさんの管に繋がれたアヤノは、まるで作られたばかりの精巧な人形のように静かに眠っていた。


 彼女の白い手は冷たくて、握りしめても僕の体温は吸い込まれるように消えていく。


「ごめん、アヤノ……ごめんな……」


 何度謝っても、彼女の長い睫毛が動くことはない。


 一週間前のあの夜、すべては本当に些細なすれ違いだった。

 アヤノがずっと楽しみにしていた三ヶ月記念日のデート。僕は仕事のトラブルで約束の時間に二時間も遅刻した。焦りと疲労で余裕がなかった僕は、スマホの通知を何度も無視してしまった。


『仕事と私、どっちが大事なの?』なんていうベタな台詞を、アヤノが言うわけがない。彼女はただ、僕の身体を心配し、そして少しだけ寂しかったのだ。


 それなのに、やっと合流した駅前の雨宿りの中で、アヤノの潤んだ瞳を見た瞬間、僕の幼稚なプライドが頭をもたげた。

「俺だって必死に働いてるんだよ! 少しくらい我慢してくれたっていいだろ!」


 言い訳だった。自分の不手際を認めたくなくて、大声をあげた。

 アヤノは悲しそうに目を見開き、ポロポロと涙をこぼした。そして、あの言葉を僕に残して、激しい雨の降る交差点へと走り去ってしまったのだ。


 ブレーキの金属音。鈍い衝撃音。

 ライトの光に照らされたアヤノの赤い傘が、水たまりに落ちていく光景が、今も瞼の裏に焼き付いて離れない。


「僕のせいだ。僕があんなことを言わなければ……」


 医師からは「今夜が山場です。覚悟を決めてください」と告げられた。

 アヤノの笑顔をもう一度見られるなら、僕の命なんてどうなったっていい。神様でも悪魔でもいいから、彼女を救ってくれ。


 そんな一心で病院を飛び出し、冷たい雨の中を彷徨っていたとき、僕は吸い寄せられるように、あの『カフェ・時溜まり』の扉を叩いたのだ。


「あなたの残りの寿命と引き換えに、愛する人の【苦痛のない輝かしい1日】を買い戻すことができる」


 怪しげな店主の言葉だったが、僕にはそれが蜘蛛の糸に見えた。

 迷うはずがなかった。僕は契約書にサインをし、店主が淹れた漆黒の珈琲を飲み干した。


 頭がクラクラする。視界が歪む。

 気づけば、僕は再び病院の廊下に立っていた。


「エド……くん?」


 病室のドアの向こうから、弱々しい、けれど確かに僕の境界線を揺らす、懐かしい声が聞こえた。

第1話をお読みいただき、ありがとうございました!


若さゆえのプライド、そして些細なすれ違いが招いた最悪の悲劇。エドの後悔がどれほど深いものか、感じていただけたら嬉しいです。

そしてついに、契約の力によってアヤノが目を覚ましました。


しかし、これは「奇跡のハッピーエンド」ではなく、エドの命と引き換えに手に入れた「最後の24時間」の始まりに過ぎません。


アヤノが目覚めたことで、ここから物語は一気に動き出します!二人の最後のデートはどうなるのか……。

もし「続きが気になる!」「切ない……!」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録や、ページ下部にある評価の星【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると励みになります!


それでは、第2話でまたお会いしましょう。

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