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旦那様Side(1)

 見損なった――最近立て続けにその言葉をぶつけられている。


 初めは領地の庭師、マックからだった。

 先触れを出さずにいきなり領地を訪れた日のことだ。


 最初のうちは、ヴィーのバラの手入れが上手で、彼女が世話をしたバラは見事な花をつけるし土はふかふかになると我が妻のことをにこやかに称賛していたはずだった。


「まさか魔法でも使っているんじゃないかって思うほどにお上手なんですよ」


 いや、そのまさかだとも言うのも無粋な気がしてただ頷きながら聞いていたのだが、マックの顔から笑みが消えたと思ったら、絞り出すような声で言われたのだ。

「若旦那様、私はあなたのことを見損ないました」と。


 領地に閉じ込められて健気に庭仕事をするヴィーに対して他の使用人たちはぞんざいな態度を取り、ほったらかしにしている。

 あなたが新妻にそんな仕打ちをする人間だとは思わなかったとなじられたのだ。


 魔法の鍛錬のための土いじりと、使用人たちの目を盗んでダンジョンに行ける環境が我が妻には必要不可欠なのだと説明できたらいいのだが、それよりもまずヴィー自身にいい加減気づいてもらいたいと思っている。ロイが誰なのかを。



 いきなり領地に来たのは、仕事の上司でもあるエリックが「いきなり帰るとさ、奥さんの隙だらけの姿を見ることができるんだよ。それが可愛くってさあ」と惚気ているのを聞いたためだった。


 ヴィーのことなら、隙の無い姿よりも隙だらけの姿の方がよく知っている。

 ダンジョン攻略で疲れ果て白目で眠るヴィーを酒場まで背負って帰ったこともあったし、イカ焼きを喉に詰まらせて背中をバンバン叩いてやったこともあった。

 ヘビ型の魔物がたくさん出てくる階層で半べそをかいていた時も、大喧嘩をした翌日に目を腫らしてぶすっとした顔をしながらも攻略についてきた時も、本当は可愛いと思っていた。


 そして、いまだにロイの正体に気づかない新妻は、いきなり現れた夫にどんな顔をするだろうか。驚いた顔も、嫌そうな顔も可愛いに違いない。

 そう思いながら領地の屋敷に到着すると、メイド長のサリーが大慌てで図書室へと先に行ってしまったのだ。


 ヴィーを毎日図書室に閉じ込めて放置していることに後ろめたさを感じたのかもしれないが、それでは不意打ちではなくなってしまうじゃないか!とガッカリしていると、サリーが大きな悲鳴を上げながら戻って来た。


「た、大変ですっ! 若奥様がっ!!」

「どうした?」


 真っ青になって震えるサリーをどうにか落ち着かせてから事情を聞くと、ヴィーに声を掛けても応答がないため眠っているのだと思って少し力を入れて肩を叩いたところ、その右腕が肩からちぎれて落ちてしまったというのだ。


 なるほど、土人形か。

 ヴィーはまだダンジョンから戻って来ていないという訳だな。


 不覚にも自然と口元が緩んでしまったらしい。

「若旦那様! これは本当の話です、笑っている場合ではございません。早くっ、早く若奥様の手当をしないとっ!」


 凄まじい握力で腕を掴まれてサリーに引っ張られた。

 困ったな、どうごまかそうか……と迷っているうちに、図書室の前に着いてしまった。


「本当なんです! 旦那様、驚かれないでくださいね」

 サリーが覚悟を決めたように勢いよく扉を開けると、土人形ではなく本物のヴィーが立っていた。


 間に合ったのか、よかった。

 サリーには申し訳ないと思いつつ、疲れていて見間違えたのではないかとやや強引にこの一件を終結させた。

 ヴィーが澄まし顔をしながらも、おそらく内心とても焦って懸命に取り繕おうとしているのが垣間見えて、なるほどたしかにエリックの言う通り普段とは違う姿を見るのもいいものだと思った。


 

 その日の夕食の席で、ワンピースに着替え結婚前にプレゼントしたリボンで髪を縛ったヴィーが可愛すぎて、彼女が入って来たときには直視できないほど心臓が高鳴った。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!

 可愛すぎるだろう!


 初夜の時もそうだった。

 あんな透け透けのナイトドレスは反則だ。

 鼻血が吹き出すんじゃないかと思ってすぐに目を逸らすしかなかった。

 一度抱いてしまえば、そのまま毎晩、足腰立たなくなるまで抱き潰す自信がある。

 

 そうなったらダンジョン攻略どころではなくなるし、そもそも好きでもない男に毎晩そんなことをされるのは嫌に違いないと思ったのだが、妙に拗れてしまった今になって振り返ると、あのタイミングで打ち明けてしまえばよかったのだ。

 実は、自分がロイであることを。



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