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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2前『三世編・魔女堕ち』
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物語No.21『彼女が見たい物語』

 創世三世の自宅。

 その近くで三人が目を光らせていた。


「もう三日、帰ってくる気配がない」


 三世の姿が全く見えない家屋を遠目で眺め、三世の所在に不安を抱く。

 色を塗り忘れた髪色をした少年ーー暦はある懸念をしていた。


「愛六、琉球、あいつがこうしていなくなる前、誰かに会ったとか、様子がおかしくなったとかなかったか?」


 琉球は見当がついているのか、おぼろ気ながらも話し始める。


「三世が不登校になる前、初めて学校を早退した日があった。でも荷物とかは学校に残っていたから変だとは思ったんだけど」


「そうか」


 短く返事をした暦は、自分が予想していた事態の可能性が高まっていたことに苛立ちを覚えていた。


(魔女エンリ……、お前、三世に何をした)


 まだ確信には至らない。

 だが、愛六がふと呟いたことに暦は衝撃を受ける。


「そういえばその日、一瞬だけ世界が真っ暗になったよね」


 暦は確信した。

 事態は思っていた以上に最悪だった。


(まさか、魔女の契約を……)


 予想以上に事態は進行していた。

 暦は事態の説明を愛六と琉球の二人へするかどうか悩んだ末、状況を断片的に、尚且つ簡潔に伝える。


「お前ら、覚悟はしておいた方がいい」


「何のですか?」


「三世を殺す、覚悟をだ」



 ♤



 ギルド第三師団アジトにて、三世は魔女エンリによって魔法の訓練を施されていた。

 三世が唯一使えるのは火属性魔法。

 最初の段階では火を手もとに出現させるという小さなものだったが、今では火を凝縮させ、ボールのように飛ばすことができる。


「飛距離はわずか三メートル。現状では攻撃力には乏しいな」


 三世はあまり落ち込んでおらず、最初よりも明らかに強くなっていく自分の姿に高揚していた。


「エンリさん、僕って強いですよね」


 エンリは一瞬だけ驚き、目を見開いた。

 すぐに冷静さを取り戻し、小さな笑みとともに言う。


「ええ、あなたは強いわ」


(私のかけた魔法が想像以上の効果を発揮しているのかしら? いや、違うわね。この子、自分が特別な存在だと信じているのね)


 魔女エンリは他人の心さえも読む。

 三世が何を思っているのか、何に憧れたのか。

 自分は特別な存在である、自分は英雄になることが確定された存在である、自分は誰よりも最強の名が相応しい存在である。

 三世はただ信じたかった。

 唯一の生きる希望が夢であり、憧れがそこにある時だけが、生きていてもいいと思える。


 だから魔女エンリは思っていた。

 ーー早くこの子を壊したい。


「エーテル、あなたはもっと強くなるのよ」


「はい」


 自分が魔女エンリに期待されている。

 私欲な願いが存在しているとは、気付くことはできない。


「もっともっと強くなってーー」


 魔女エンリは妄想する。

 三世が己の手で三浦友達に死神的一撃を与え、絶望の末に駆けつけた暦、琉球、愛六の手によって罰を受ける。

 友達だった少女を自らの手で討ち、後に仲間だった者たちによって裁かれる。


 自分が思い描いたストーリーを早く実現させたいと、オーケストラのような鼓動が奏でられる。

 鼓動のままに指揮棒を振るう姿で興奮が冷めきらない。


(ああ、私はなんて素晴らしい物語を描いてしまったのかしら。エーテル、これがあなたの物語よ)


 魔女エンリは期待に胸を踊らせる。

 そこへギルド第三師団副師団長のライが歩み寄る。


 ライがここに来た事情を予想したエンリは、愉快に耳をライに傾ける。

 ライは三世に聞こえない虫の声で伝える。


「エンリー、三浦の居場所が分かったよ」


 この上ない笑みがエンリの顔に浮かぶ。


 ようやく見つけた。

 三浦友達を発見したならば、これからするべきことは一つ。

 先ほど妄想した物語を実現させてしまえばいい。


 誰が悲しもうと、誰が死のうと、魔女エンリには関係のないことだ。

 彼女はただ自分が愉快に楽しめる物語が欲しい。

 三世らにとって、彼女は呪いそのものだ。


 逃げても逃げても、呪いはいつまでもどこまでも追いかける。


「ではシナリオを進めようかしら。彼にとっては最終章になってしまうけど」


「でもいいの? エンリ、あいつのこと気に入ってたよね」


「私は愛しいものほど壊したくなるの。分かるでしょ」


「やっぱエンリ変」


 ライは腹を押さえ、無邪気に笑っている。

 エンリは渋い表情でなんともいえない様子だ。


「三浦友達はいつもどこにいるのかしら?」


「あいつならいつもそこら辺の森を徘徊しているよ。だから特定の場所にとどまることはないよ」


「少々厄介だ」と小言を吐くも、問題に対しての解決策が浮かぶみたいな笑顔に変わる。

 物語の終わり、黒幕として登場しても恐ろしく似合う笑み。


「勇者筆頭の遠征組の帰還まで残り三日かしら」


 今回の遠征は次の大規模遠征に備えた下準備のようなものだ。

 次の本格的な遠征の前に確認しておきたい事項、隊列やモンスターの脅威さ、その他諸々について。

 それらの情報からエンリは大体の日数を計算した。あくまでも目安である。


「いつやるの?」


「明日の夜、現実世界で三世に三浦を殺してもらおう。つまりライ、あの三人を誘きだしてほしいの」


「私にかかればお手のものよ。だって私、真実は得意ですから」


 ライは胸を張り、自慢話かのように言った。

 エンリは唇に指を持っていき、色っぽさを醸し出し、吐息とともに口にする。


「あら、また嘘をついたのね」

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