第7章ー13
バインナウン将軍としては、義弟でもある国王タビンシュエーティーに対して、更なる警告を発した。
「そもそも(ポルトガル領)マラッカに対して派遣した使者が、誰一人還って来ない。どうにも怪しい、としか自分には思えないが。怪しいとは思わないのか」
「確かにそれは否定できんな」
タビンシュエーティー国王も、流石にこの事実には反論しづらかった。
使者と言っても、マラッカに1人だけ派遣されている訳ではない。
使節団として、それなりの人数でマラッカにはビルマから赴いている。
船も嵐等に出遭う危険を考えて、3隻に分けて赴かせたのだ。
ところが、誰1人復命にマラッカらからビルマへ帰ってこないのだ。
幾ら嵐等の危険が航路においてあるとはいえ、幾ら何でも、という想いが湧いてくるのは当然だった。
しかし、その一方で。
「今、シャム王国に攻め込まないでいて、このような好機がまた訪れると思えるのか」
「それを言われると反論しづらいな」
タビンシュエーティー国王の反問の言葉は、バインナウン将軍が返答に窮する事態を生じた。
実際問題として、このような好機がまた訪れるようなことは、中々無いと言えるのも事実なのだ。
シャム王国は、自国の軍隊の最高司令官である将軍とその側近を粛清し、軍隊がガタガタになっている。
また、国王は10代前半で少年と言っても過言では無く、実母を追放する等、国内は不安定な有様だ。
このような好機を逃して、シャム王国への侵攻を先延ばしして、シャム王国の内政が立ち直り、軍隊が再編されてしまっては。
ビルマ王国が、シャム王国への侵攻作戦を行うのには、多大な困難が生じるだろう。
だから、今こそ、シャム王国への侵攻作戦を発動すべきだ、というのも道理があった。
いや、道理があり過ぎる有様だった。
こうしたことを考え合わせた末、バインナウン将軍は結局、タビンシュエーティー国王の主張に同意せざるを得なくなった。
それに、そもそも論から言えば、相手が国王である以上、幾ら義兄の将軍とはいえ、国王が断固たる意志を示したら、従わざるを得ない。
だが、心の中に一抹の不安を抱え込んだまま、バインナウン将軍は、タビンシュエーティー国王親征のシャム王国侵攻作戦に従事することになった。
そして。
「輜重部隊を併せて、1万人近くを動員して、シャム王国に侵攻することになったが、道路が難儀極まりないことになったな」
「仕方ありません。戦象まで通るとなると、道路が荒れるのは」
シャム王国侵攻作戦で先陣を務めることになったバインナウン将軍は、部下とそんな話を交わしながら、シャム王国へ、更に首都アユタヤへと向かうことになった。
この攻勢を成功させようと、補給用の物資を運ぶための象も併せれば、100頭もの象が動員された。
(なお、その内、戦象といえるのは40頭)
だが、これだけの象が通るとなると、道路が荒れるのは止むを得ない話だった。
そのために。
「象が通れるように、道路を整備しろ」
「ある程度の時間を頂かないと、道路整備が追いつきません」
「止むを得ないな」
そんな感じで、10日掛けても、山道ということもあり、200キロどころか、100キロ余りしか、進軍できないという事態が生じてしまう。
そして、これだけの大軍が進軍するのだ。
当然のことながら、シャム王国側にビルマ王国軍の進軍は筒抜けと言っても良い事態が生じる。
こうしたことから。
やっとの想いで、ビルマとシャムの国境の山岳地帯を、ビルマ王国軍が突破を果たした際には。
「さてと、日本軍の恐ろしさをビルマ王国軍に教えてやるか」
そう武田少尉が呟く等、日本軍は準備を整えた状態で、ビルマ王国軍を迎え撃とうと逸り立つ状態になっていた。
ご感想等をお待ちしています。