第7章ー3
更に皇軍によってもたらされた様々な新兵器等と、それによってもたらされた戦術の数々。
武田晴信少尉にしてみれば、火縄銃だけでもかなりの衝撃だったが、その後に見せられた新型銃、皇軍の将兵に言わせれば、前装式ライフル銃は、単に衝撃を受けるだけでは済まなかった。
火縄銃は、何だかんだ言っても、そう弓矢と有効射程距離は変わらない。
それこそ熟練するのに、火縄銃は弓矢程は手間がかからないだけだ、という者さえいるくらいだ。
(勿論、その熟練の手間の差が、実際には極めて大きく、そう主張している者にしても、半ば捨て台詞だ)
だが、前装式ライフル銃は、完全に武田少尉が想定していた戦場の様相を変える代物だった。
しかも、全軍(というより全将兵)が、前装式ライフル銃装備が基本的な前提なのだ。
これは、武田少尉、いや、戸次鑑連大尉や鬼庭良直大尉といった面々にしても、考えたことが無いというより、考えが全く及ばなかったことだったのだ。
これまで、全ての将兵が基本的に同じ武器をもつ等、アリエナイと言っても良い話だった。
何しろ、例えばだが、槍と弓、両方を装備する武士、足軽等がいる訳が無い。
両方を装備する等、ただ単に武装が重くなるだけと言っても過言では無く、無意味だからだ。
(更に、その武士、足軽が、両方に熟達する必要もある)
だから、実際の戦場においては、弓を主武器にした者、槍を主武器にした者、騎馬に乗る者(更にその中には、弓を射る者、刀を振るう者等がいる)が、それぞれ集うことになる。
そして、弓隊、槍隊、騎馬隊等、それなりの兵種に分けた部隊、備を作った上で、戦場で相対するのが、ある意味、常識と言ってよい話だったのだ。
(筈槍があるではないか、という主張があるが、流石に筈槍で、弓と槍の両方の役目を完全に果たすのは、どうにも無理がある話だった)
しかし、前装式ライフル銃(後に、火縄銃も改造され可能になる)には、銃剣が装備されており、容易に短槍代わりに使えると言っても過言ではなく、実際に前装式ライフル銃兵が接近戦を行う際には、短槍兵と化す、といえるのだ。
短槍では役立たない、と主張されるかもしれないが。
例えば、馬と言うのは、基本的に尖った物を怖れる性質がある。
だから、銃剣を装備した前装式ライフル銃兵がズラリと並んでいては、余程、訓練を積んだ重騎兵の集団でない限り、馬が怯えてしまい、重騎兵の突撃自体が困難になる。
それに長槍を連携して振るうのには、それなりの膂力が必要であり、更に周囲の者との連携が必要不可欠という問題がある。
そういったことからすれば、前装式ライフル銃兵は、そう相手を怖れることなく、長槍兵と戦うことができるのだ。
(更に言えば、前装式ライフル銃兵は、いざとなれば接近戦を避けて、後退すればよい。
長い槍と前装式ライフル銃とどちらが取り回しが容易で、更に装備した兵士の機動力について、どちらが高いかを考えれば、前装式ライフル銃兵の優位は言わずもがなの話だった)
そして、教育と訓練(更にきちんと現金を給料として支払うという方法)により、今の新生が成った日本陸軍の将兵は極めて忠誠心が高く、散兵戦術さえも(徐々にだが)実際に活用できるようになっていた。
本当に武田晴信少尉にしてみれば、夢のような兵器を装備し、実際に新戦術を活用できるようになった軍隊としか、今の日本陸軍は言いようが無かった。
だから、シャム王国に派遣され、ビルマ王国の軍隊と自分達が戦うという事態になっても、武田少尉にしてみれば、自分達の武器や戦術を考えれば考える程、怖れる必要は無い、と言えた。
更に実際の戦場で采配を揮う上官にも、十分に信頼がおけるのだ。
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