第6章ー12
「やったぞ」
完全に辻政信大佐と上里松一大尉の独断専行の結果と言われても仕方のないことだが、シャム王国が日本との攻守同盟締結に合意したのだ。
「善は急げだ。日本本国に、日本軍400名の派遣を、すぐに要請しろ」
「派遣してくれますかね」
辻大佐と上里大尉は、そうやり取りをした。
「少なくとも200名は、すぐに派遣してくれる筈だ。そのように打合せは出来ている」
そう言った後で、平然と辻大佐は言った。
「それに相手が実母とはいえ、実父を暗殺された息子の願いを聞いて、仇討ちの助太刀をするというのは、多くの日本人の琴線に触れる筈だ。だから、裏事情も合わせて連絡すれば、400名は派遣される」
「確かに」
本来は沖縄出身の上里大尉にしても、辻大佐の言葉には納得せざるを得なかった。
実際、この時代に「忠臣蔵」等の江戸時代のいわゆる三大仇討ちは未だなかったとはいえ、「曽我物語」は既に日本に存在しているのだ。
そんな感じで、仇討ちというのは、多くの日本人の琴線に触れるものだ、という辻大佐の主張は、上里大尉にも極めて納得のいく話だった。
「ところで、ジョホール王国は日本と同盟してくれるでしょうか」
「ジョホール王国にとって、マラッカは本来の首都だった。だから、日本が対マラッカ戦争に踏み切る、といえば、喜んで攻守同盟締結に動く筈だ。それに」
辻大佐は、悪い表情を浮かべながら、言葉を続けた。
「マラッカは、ジョホール王国が取ればいい。その代り、日本はシンガポールを領有したい、と同盟締結の代償として言えば、最終的に日本が有利な同盟になる」
「確かに」
辻大佐の考えに、上里大尉も同意せざるを得なかった。
少しわかりにくいので、第三者的な補足説明を入れる。
単純に対ポルトガル戦争で、ポルトガル領マラッカを日本領とするのは、今後のジョホール王国との関係を考えるならば、余り望ましいこととはいえなかった。
何故なら、ジョホール王国にとって、本来の首都だったマラッカ奪還は悲願だったからだ。
しかし、かといって、対ポルトガル戦争に際して、日本が利権を全く得ない、というのでは、日本国内が納得しないし、ジョホール王国にしても、日本の態度の裏を勘繰る羽目になり、同盟関係にヒビが入る事態さえも生じかねない。
だから。
対ポルトガル戦争に協力する代償として、マラッカをジョホール王国が確保した暁には、今現在は完全に寒村同然のシンガポールを、対ポルトガル戦争に協力する代償として、日本が獲得するという条件で、日本とジョホール王国は同盟しよう、と辻大佐は考えており、上里大尉も加担しているのだ。
シンガポールの地理的条件からすれば、マレー半島のある意味、先端に存在し、マラッカ海峡を扼する位置にあることだけでも、日本から南シナ海を経由して、インド洋に赴く際には、完全にシンガポールは抑えねばならない要地といえた。
更に皇軍関係者にしてみれば、シンガポールは、英国にしてみれば東洋経略の際の最大の要地であり、しかも太平洋戦争開戦の際に、自分達が最大の攻撃目標としていた要地でもあった。
そうしたことからすれば、対ポルトガル戦争でジョホール王国と日本が共闘し、それに勝利することによって、ジョホール王国からシンガポールの領有権が日本に割譲されて、日本の領有権が認められると言うのは、ある意味、お釣りの来る歓迎すべき事態に他ならなかった。
更に、ジョホール王国は対ポルトガル戦争を継続中であり、味方を募っている状況にあることからすれば、日本からの対ポルトガル戦争のための同盟締結要請を歓迎しこそすれ、反対する理由は無いのだ。
そして、辻大佐と上里大尉はジョホール王国に向かった。
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