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第6章ー9

 上里松一が、子ども達の疑問に答えている間にも、夜は更けていく。

「ねえ、日本とオーストラリアとでは、夏と冬が逆になると言うのは本当なの」

「ああ、世界は丸いんだ。地球というけどね。地球の北半球と南半球では、季節が逆になる」


「雪とか氷とか、本物を見てみたいな」

「ここでは無理だな。でも、遥か北の方とか、遥か南の方に行けば見られるな」


「北アメリカ大陸の一角で、金が大量に発見されたって。本当なのかな」

「さあ、どうだろう。でも、行くのが大変だな」


 そんなふうに、子ども達とやり取りをしながら、上里松一の脳の一角はどこか冷めていた。

 こんなふうに庶民の関心を煽り、海外植民を図るのか。

 確かに巧妙な遣り口だな。


 辻政信大佐は、含み笑いをしながら言っていた。

「カリフォルニアで、半ば予想通り金が見つかった。史実通りのゴールドラッシュめいたものが起こりつつあるようだ。三河の松平党とか、多くの東国の国人衆等が、一儲けをしようと北米大陸に移住したいと考えているようだな」

「わざと行くように仕向けているのでは」

 上里松一が、皮肉っぽく言うと。


「そんなことはない。それこそ、絵本等で金が採れて、更に広大な農地がより取り見取りだ、と我々が煽るようなことをしたかもしれんが、そこに行くかどうかは自己判断、自己責任だからな」

 辻大佐は、更に半ば追い討ちを掛けた。

 上里松一としては、

「自己判断、自己責任とは便利な言葉ですな」

 と喉元まで出かかったが、沈黙することにした。

 辻大佐に幾ら言っても詮無いことだ、と悟ったからだ。


 そんなことを想いながら、子ども達とやり取りをしていると、子ども達のまぶたが垂れてきた。

 子ども達が眠くなってきたようだ、と思った上里松一は、子ども達をプリチャと協力して寝かしつけた。

 そして、上里松一とプリチャは、夫婦(?)二人きりの時間になったが。

 暫くお互いに口を開けなかった。

 お互いに何から話そう、と悩んだからだ。

 結果的に先に口を開いたのは、プリチャの方だった。


「ご主人様、傭兵を上里屋が取り扱う、というのは本当ですか」

「いや、今後とも上里屋は断じて傭兵等、人の取扱いはしない」

「それなら、あのお客を何故に歓迎されたのですか」

 プリチャの言葉は、側室が主に掛ける言葉としては、非礼と言われても仕方ない程にきつかった。

 だが、プリチャにもそれなりの理由がある。


 上里屋には、暖簾分けをしてもらった張敬修以来の伝統、商売の仁義がある。

 それは、どんなことがあろうとも、人は商売としては取り扱わない、ということだ。

 だからこそ、使用人等にもきちんと俸給を払い、年季奉公人でさえ一人もいない。

 その代り、きちんと働かない使用人等は、すぐにクビにする。

 ある意味、信賞必罰を徹底している。


 張敬修に言わせれば。

「奴隷や年季奉公等、本人が儲からないやり方は、本人のやる気が出ませんからな。きちんと俸給を本人に支払うべきなのですよ。そうすれば、本人もやる気が出て、私も儲かります」

 ということだった。

 上里松一にしても、その考えには共感を覚えて、その商売の仁義等を引き継いでいる。


 だからこそ、プリチャは、辻大佐の訪問から、夫が面談に応じたことについて反感を覚えていた。

 しかも、すぐに追い出すのか、と思いきや、何時間も話し合った末に、更にその人物(辻大佐)を離れに泊めるようなことまで、夫はしているのだ。


 プリチャは、平生はもう少し柔らかい対等な言い方を、上里松一にする。

 プリチャは、この家の女主人ともいえる存在だからだ。

 それなのに、ここまで夫にきつい言い方をわざとしているのは、裏返せば、それだけ今回のことについてはプリチャが怒りを募らせている証だった。

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