第6章ー8
ちょっと幕間的な話で、ドラえもんの「モアよドードーよ永遠に」の少しオマージュが入った話になります。
「ねえ、本当にマダガスカルという島には、こんなに大きな飛べない鳥がいるの」
義理の娘、養女の美子の問いかけに、上里松一は、
「そうだよ」
と答えながら、考えこまざるを得なかった。
自分達がかつていた世界では絶滅していた鳥なのに。
美子は、絵本に描かれているエピオルニスに、目を見張っていた。
「ニュージーランドという島にいるジャイアントモアと比べると、どちらが大きいの」
「うーん。絵本の説明によると、重さではエピオルニスの方が重い。でも地上からの高さだと、ジャイアントモアの方が高いみたいだな。それこそ、太っちょさんとノッポさんとどちらが大きいか、と聞くようなものだろうな。人によって、答えが違うだろうな」
父子はそんな会話を更に交わした。
その横では、勝利が絵本をのぞき込んで、目を見張っていた。
上里松一は、子ども2人の相手をしながら、更に考えこんでしまった。
自分達のいた世界では、エピオルニスも、ジャイアントモアも絶滅していた。
だが、この世界、時代では未だに健在なのだ。
それだけ過去の世界に、我々は来てしまっているともいえるが。
辻大佐は気になることを言っていた。
「生物学に詳しい皇軍の者が言っていたのだが、エピオルニスはともかく、ジャイアントモアは絶滅していた筈だ、と言っている。ということは、我々がいた世界とは違う過去の世界の可能性が高いな」
「我々がいた世界とは違う過去の世界ですか」
上里松一は、一瞬、辻大佐は何が言いたいのだろうか?
とまで悩んでしまった。
「そもそも、我々がいた世界で、皇軍が来訪したという記録等があったか」
「いえ、当然、ありません」
「そうだろう。ということは、我々がいた世界と、この世界とは違うとは思わないか」
辻大佐は、意味ありげな目を向けながら言った。
上里松一は、ようやく考えが回った。
「つまり、単純に我々が過去の世界に来た訳ではない、ということですか」
「そういうことになる。実際に筑豊炭田から採掘した石炭が、いわゆるカーディフ炭のようで、我々が知っている筑豊炭田の石炭よりも上質だ、と石炭に詳しい者が驚いていた。商業生産を始めたばかりだから、良質の石炭が当たった、という可能性が絶無ではないが。絶滅している筈の生物が生き残っている等の傍証が積み上げられていっては」
上里松一の問いかけに、辻大佐はそこで言葉を切ったが、続く言葉は半ば自明だった。
我々は単純に過去の世界に来た訳ではないようだ。
しかし、だからと言って。
「何かができるという訳ではないですね」
「全くだな。我々ができることをするしか無いな」
上里松一と辻大佐は、そうやり取りをして済ませるしかなかった。
上里松一が、それを想い起こしていると。
子ども達は、絵本の別のページを開いて、二人でやり取りを始めていた。
「こんな不格好な空を飛べない鳥もいるんだ」
「本当。モーリシャス諸島とかには、こんな鳥がいるなんて」
二人のやり取りが気になって、上里松一がそのページを見ると、ドードー鳥が描かれていた。
そういえば、この鳥も自分達の世界では絶滅している。
「そういえば、一度、ミカドダイカイギュウを見に行きたいよね」
「家族がとても仲が良いらしいね。でも寒い地方にいるらしいよ」
姉弟はそんな会話を弾ませている。
ミカドダイカイギュウ、ステラーカイギュウのことだ。
今上(後奈良)天皇陛下が、その性質等を知り、ミカドダイカイギュウの名を与えた。
仲間が傷つけられたら助けるために、他の仲間が集まる性質があるのを知り、そんな麗しい仲間愛がある大きな生き物なら、ミカドダイカイギュウと名付けられたらどうか、と言われたとのことだ。
上里松一は心温まるものを覚えた。
ご感想等をお待ちしています。




