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第4章ー12

 もっとも、幾ら砲弾を惜しむな、と近衛師団長の武藤章中将が言っていたとしても、物には限度がある。

 何しろ、砲弾の補給の目途が、現在は立っていないのだ。

 だから。


 この時、近衛砲兵連隊の主力は、75ミリ野砲12門、105ミリ野砲12門を展開させていた。

 更に3分程の暴露砲撃を浴びせれば、この時代なら十二分に効力を挙げられる、と砲兵連隊の幹部達は考えていたこともあり、その程度しか砲撃を実際には浴びせてはいなかった。

 それでも、砲撃というものをそもそも浴びたことが無かった足利幕府軍の兵、足軽達にしてみれば、異形の攻撃としか言いようが無かった。

 そして。


 砲撃の衝撃から立ち直る間もなく、近衛歩兵の突撃が始まった。

 とはいえ、単純に突撃を掛けるようなことはしない。

「連隊砲、大隊砲等を駆使して、敵軍を更に崩せ」

 近衛歩兵第3連隊、近衛歩兵第4連隊共に火力支援の下、歩兵を突撃させる。

 足利幕府軍にしてみれば、このような攻撃を受けるのは初めてである。


「怯むな。落ち着け。敵軍の数は、お前らより少ない」

 懸命に三好長慶が、三好政長が、六角定頼といった足利幕府軍の先手を任された諸将が、足利幕府軍の兵、足軽達の動揺を落ち着かせようとする。

 実際、突撃してくる近衛歩兵の総数は、足利幕府軍の兵の3分の1といったところだ。

 だから、本来からすれば、数の暴力で足利幕府軍が勝てる筈なのだが。


 これまでに浴びたことのない砲撃が、自分達に浴びせられているのだ。

 そうした中で勇を振るって、槍や刀を操って、近衛歩兵を迎え撃てる者がそう居る訳もない。

 更に、接近してきた近衛歩兵は。


「前衛の者はほふく前進、擲弾筒班、軽機関銃班は協働して、ほふく前進を援護しろ」

 近衛歩兵は、これまでの訓練の精華を示そうと、それこそ帝国陸軍歩兵の模範となるような攻撃を足利幕府軍に加えてきた。


 砲撃に加え、擲弾筒による攻撃や軽機関銃射撃、更に前衛の者の小銃射撃や銃剣突撃までも、足利幕府軍の兵は浴びせられたことから。

「もうダメだ」

「命あっての物種だ」

 兵、足軽達は、緒戦の砲撃を受けてから、半刻(1時間)も経たない内に総崩れの様相を呈し出した。


「引くな」

「逃げるな」

 三好長慶以下、足利幕府軍の諸将は懸命に兵を督励したが、その程度で完全に怖気づいた兵、足軽達が引きとどめられる筈もない。


「円明寺川沿いの陣地は完全に崩れ、兵達は敗走を始めました」

 後詰等のためにやや後方にいた足利義晴や細川晴元は、上記の報告を受け、一旦、京へ更に近江へと退いて再起を期そう、と動き出したが、兵達の混乱は激しかった。

 更に一部の将兵は、この際、足利義晴や細川晴元のクビを皇軍に持参して、皇軍に寝返ることで、我が身の安全、栄華を得ようとさえも画策しだした。

 いわゆる落ち武者狩りをしようというのだ。


「無念じゃ。これ程、皇軍と自分達の軍勢が違っていたとは」

 三好長慶は近習の者と共に最期まで戦い、そう半ば呪詛の声を呟きながら、皇軍歩兵の狙撃の前に負傷した身に脇差を突き立てて、自害して果てた。

 他に六角定頼も、ほぼ同様に自害して果てた。


 三好政長は、何とか逃亡を果たそうとしたが、落ち武者狩りの前に果てることになった。

 細川晴元も同様の目に遭った。


 もっとも、悲惨な目に遭ったといえるのが、足利義晴だった。

 足利幕府軍の一員だった奉公衆の一部が、皇軍に足利義晴の身を差し出すことで、保身を図ろうとしたことから、厳重な縛めの縄目を受けるという恥辱を受ける羽目になったのだ。

 だが。


「それがかつての主君に対する態度とは」

 とそれを見て、激怒した皇軍の将兵により、その奉公衆の面々は文字通り惨殺されるという事態が生じてしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日和見や寝返りが当たり前であった戦国時代の合戦と国民皆兵制度を敷き、軍令に絶対服従を余儀なくされた近代戦の考え方の差が如実に表れましたね。 加藤嘉明だったか…最強の兵は一騎当千の荒武者なん…
[一言] 予想以上にあっさり三好長慶達が死んでしまいましたね(汗)
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