第3章ー15
「南九州の制圧が完了したか」
肥後の一揆軍解体、日向の伊東氏を始めとする南九州の国人衆の帰順を受け、薩摩、大隅、日向、肥後の4国の制圧がほぼ完了したといえる1542年の2月末のある日、山下奉文中将は主に第18師団の幹部を集めて、清水城において慰労会を開いている中で独り言を呟いていた。
(次章で描くが)相前後して、近衛師団は京の都の完全制圧に成功、今上帝(後奈良天皇)陛下を庇護の下に置くことにも成功している。
併せて、山城、摂津の2国が皇軍の制圧下にも入り、和泉、河内、大和方面の制圧に臨もうとしているという戦況に現在はあった。
とはいえ、これ以上の進軍となるとどうすべきか、という点で、皇軍内部にも対立が産まれつつあった。
「いわゆる畿内を抑えるのは当然として、兵力等が足りるかな」
山下中将は、それを心配するようになっていた。
そもそも皇軍には金が無い。
ルソン、琉球を抑え、九州、畿内にも勢力を伸ばしつつあるとはいえ、収税機構等は未整備だ。
収税ができないと金が入って来ない。
この辺り、制圧した地域から、軍税や賠償金という名目で、当座の資金を調達しているが。
「選銭令を速やかに帝に出すように求めて頂きたい」
そう主計士官のほぼ全員が訴える事態が起きている。
それ位、この頃の日本国内で流通する通貨は、宋銭、明銭、更に日本や明で作られた私鋳銭が完全に入り乱れているという惨状だったのだ。
これでは安心した通貨の流通自体が、極めて困難になるし、税収も不安定になる。
更に言えば、信用できない通貨が流通する中で、日本の経済が安定する訳もない。
「一層のこと、生産物、例えば米で税を決めますか。石高制を江戸時代は執っていましたし」
という暴論を唱える者まで、一部からは出ているが、大勢は反対で、通貨での納税を求めている。
そうしないと税収が安定しないからだ。
「安定した税収を確保し、その上でいわゆる富国強兵を図っていかねばならないな。何しろ、この当時の世界の大国スペイン、ポルトガルと、この世界の日本は間もなく戦争に踏み切ることになるのだ」
山下中将は、更に想いを馳せた。
なお、山下中将の想いを、皇軍の上層部はほぼ共有していると言ってよい。
この世界の日本は、対スペイン、ポルトガル戦に踏み切らねばならないのだ。
ある意味、自分達のいた対米英戦争並みの相手かもしれない。
皇軍に幾ら400年未来の知識、技術があるとはいえ、それを存分に活用せねば、スペイン、ポルトガルに対して日本が優位に戦うのは困難だろう。
彼らは既に南北アメリカ大陸に勢力を扶植しつつあるのだ。
それに対し、日本は未だに国内統一すら未了なのだ。
皇軍は、速やかに日本を天皇の下で統一せねばならない。
その上で、我々はいわゆる国外に打って出るのだ。
そして、日本は必ずや勝利を収めて見せる。
そう山下中将が想いを巡らせていると。
「難しい顔をされていますな。取りあえず、飲んで憂さを晴らしましょう」
牟田口廉也中将が、酔った顔で山下中将に話しかけながら、酒を勧めてきた。
「貴様、完全に酔っておるな」
冗談めいて山下中将が返すと、牟田口中将は、呵々大笑しながら言った。
「いやあ、サトウヤシの酒が、これ程、回るとは思いませんでした。こりゃあ、焼酎ですな。酒と思って飲んだのが間違いでした。過去にこんな酒があったとは」
「ふむ」
牟田口中将の勧めた酒は、飲んでみると、口当たりの割に度数がかなり強い。
山下中将は、過去のことを知らなかったのを改めて思い知らされる気さえした。
「そうだな」
「ま、やれる限りやっていきましょう」
牟田口中将はそう言って、山下中将の下を去っていく。
山下中将もそれに同意した。
これで、第3章は終わり、島津家と近衛家の接触を描く間章を入れて、近衛師団の京への進撃を主に描く第4章に入ります。
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