第23話 敵の中へ
「なぁ、アニキ……」
「ん? どうした?」
「今更なんだけど、白塊ってなんなの?」
「ああ……俺専用のナノマテリアルウェポンだな。
ほんとは二つで一組なんだけど、武器にも防具にもなるぞ」
「俺も使ってみたい!」
「それは無理。これは俺の体内の……まぁ俺にしか扱えないものだし、結構ヤバい物だからな。
退役の時もその前の戦いで完全破壊されたってことにして、ヤバい橋をいくつもわたって……
そう、ヤバい橋を……
相棒だからなこいつらは……」
ハヤテは白塊を太陽にかざして大事そうに眺めている。
「こんなに小さいけど、実重量は1トンを超えている、反重力システムを利用しているから軽く感じるけど、専用の装置に収めないとまず持ち出すのは不可能。そもそも戦術兵器クラスだから軍でも持てる者はごく限られている。自慢じゃないけど4人しかこれとリンクできた人間はいないんだぜ」
「……アニキの言ってることは半分もわからないけど、それがすごい物ってのはよくわかったよ」
「そう、あれはクワッド星にたったひと……あれ? もういいの?」
「ハヤテ、カフェル……おふざけはそのくらいに、どうやらお迎えみたいですよ」
「今岩陰に動くものが、あとたぶんあそこにも、少しづつ包囲するように動いています」
「全員円陣を取って全方位警戒」
「はっ!」
注意を受けてハヤテは周囲を見渡す。そしてちょっと油断していたことを後悔した。
地形を見ると、周囲に何か所か高台があり、自分たちの周囲には身を隠すような場所が少ない。
敵からすれば周囲の高台や岩の影からこちらの状況を把握しやすい。
包囲攻撃を受ければ全滅必死な場所を敵はきちんと選んできていた。
マップに記された救助艇の位置が谷状になった場所で、森からの距離も離れていないために取歩という手段を取ったことが仇になった。
自動車があればそれを盾に戦うことも可能だった。
「敵に銃火器があれば、危なかったな……
皆は防御に徹するように、訓練通り、近づいたものだけを確実に攻撃。
俺は遊撃する……白塊、バトルスーツモード」
ハヤテの全身が一瞬でボディスーツのようなピタッとしたアーマーに変化する。
『現在レーダーモニター類は機能しておりません、目視での状況確認をお願いします』
「了解」
ハヤテは用意してあった警棒とシールドを装備する。
いざとなったら白塊を武器モードに移行するつもりだったが、安全第一で相手の出方を伺う予定だった。
「さて、俺が一人で行動して相手はどう動くか……」
円陣を組んで盾を構える一団からハヤテが一人影が動いた岩に接近する。
不用意に一人になった人間を逃す機は無いと相手は考えたのだろう、黒い影が岩陰の両側から飛び出してハヤテに飛び掛かる。左右同時から風のような速さで飛び掛かる影。
「なっ……」
カフェルはその光景に絶句した。
自分だったら盾で身を守りながら後退する以外に対応できなかったと思われる同時攻撃を、ハヤテがその場から一歩も動かずに、いともたやすく飛び掛かってきた狼の首根っこを掴み上げていた。
「ふむ、悪くない動きだけどね……少しおとなしくしてもらおうか……殺しはしないよ」
バチン!
狼を捉えた腕から電気が流れ、狼はバタバタともがいていたが、びくりと体を震わせると力なくだらんと気絶する。
ハヤテ達は森の中でも襲ってきた狼を出来る限り追い払うだけで殺さないようにしていた。
特に理由もなかったが、相手もこちらを本気で殺しにかかってきていないでけん制をしているだけに見えたので、身を守ることに注力してきた。その結果でしかなかった。
「ほかの個体に動揺はないか……やっぱり親玉を探すのが一番か……」
ハヤテは今狼が飛び出してきた岩の正面に立ち、腰を落とし拳を引き絞る。
「黒塊があれば楽だったんだが、な!!」
突き出された正拳は激しい音ともに人の背よりも大岩を砕いてしまった。
「……アニキが完全に違う世界に……」
「アレが本気のハヤテ……」
カフェルたちの集団へ狼が攻撃を加えてくる気配はなかった。
周囲を囲みつつあった狼たちは、明らかにハヤテを脅威と判断してハヤテへの対応に変化しつつあった。
ハヤテはそのままずかずかと狼達の領域に侵入していく。
目的のポイントは少し先の谷部分、現在の状況を考えれば、カフェルたちにはその場で身を守ってもらいながら救助艇を回収してくるのが一番安全と思われた。
「カフェル、その場で皆と地点防衛をしていてくれ、ちょっと行ってくる」
「は、はい! お気をつけて」
先ほどの戦いで、カフェルたちはハヤテにとって足手まといにしかならないことがはっきりとわかってしまったので、素直に従うしかなかった。
「すまんね、ほんとは装備の実践訓練もしたかったけど、思ったよりも敵が手ごわそうだ。
帰ったらビシバシやるから待ってくれ」
「あ、ははは、あのハヤテさんにビシバシ……はははは……」
ハヤテは村人たちの乾いた笑いに送られながら奥へと歩を進める。
周囲を囲んでいた影たちもそのハヤテにつられて移動している。
はっきりとは姿を現さないが、物陰からはっきりとハヤテを警戒しているようだった。
ハヤテがしばらく進むと目の前に谷が口を開けている。
周囲を探ると何とか徒歩で降りられる場所を発見することが出来た。
道幅は狭く、足元もおぼつかない。
「ここでは、流石に仕掛けられないだろう……たぶん、ボスとやらはこの奥……救助艇が落下したことで刺激してしまったのかもしれないな……」
ハヤテはボスが待つ谷底へ、ゆっくりと、慎重に歩を進めていくのであった。




