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もしかしたらスローライフの始まり?



「ということで、受け入れよろしくお願いします」


 けたたましいノックの音とともにやってきたのはギルド長だ。わたしはいつものようにギルドに併設されている宿の一室に泊まっていた。ほぼ定宿になっているので、この部屋を借りて早うん十年だ。私物も沢山置かれているし、居心地の良い空間になっている。

 久しぶりにベッドで寝ていたところへこの急襲だ。


 無視するつもりだったが、どんどんノックが大きくなり扉が壊れそうになったので開けた。開けてみたところ、にこやかな笑顔のギルド長がいた。


 ギルド長は貴族だと言われてもおかしくないくらいの気品がある。着ている服が平民の標準よりもちょっといい程度のものであるのが残念なくらいだ。きっとフリルたっぷりの貴族の意匠でも似合うに違いない。

 常に身だしなみを整えており、動けばふわりと男らしいさわやかな香りがする。決しておっさんのような酸っぱいにおいはしない。


 ギルド長が理路整然となんだか色々と説明していたが、寝ぼけた頭に入ってきたのは冒頭のセリフだけだ。


「つまり、どういう事?」

「お金を稼いだので数か月は暇でしょう。孤児院として場所を提供しますので、孤児となった子供たちを引き取ってください」

「は?」


 にこにこと営業スマイルを浮かべるギルド長をまじまじと見つめた。ギルド長は少し体をずらした。ギルド長の後ろには10歳くらいまでの少女ばかりがいた。少女たちがいたことにも気が付かなかったが、彼女たちはこちらを観察するように見ていた。


 わたしは5人、いや6人の少女を順にみて、怖がらせないようにとへらりと愛想笑いを浮かべる。少女たちの目に一瞬蔑んだ色を見た気がしたが、まあ気のせいだろう。初対面の笑顔はコミュニケーションツールだ。気分を悪くする人間などいるはずがない。


「グレンハーツ、貴方をギルド職員として雇います。1か月は全員分の食費も援助しましょう。子供たちが自立する手助けをお願いします」

「意味が分からないんだけど」


 きらりと眼鏡が光った。


「強面の中年冒険者でそこそこの収入が見込める。女性っぽい仕草は初見の子供たちに恐怖を与えません。その上、ブツが女に役立たないとくれば孤児院長をしないわけにはいかないでしょう」

「その論法、意味が分からん」


 そりゃあ、中身が女だから女っぽいのは仕方がない。

 男としてのプライドを捨てても、女としての矜持を捨てないこともつい昨夜決意したばかりだ。

 男の機能など今後一切、役に立つこともないだろう。

 わたしの決めた生き方なので文句はないけど、その利用してやる気満々のところが気に入らない。渋っていたら、私だけに聞こえるように声を潜めそっと囁く。


「魔王の呪い、真実をついぽろっと言ってしまいますよ?」


 とろりとした笑みを浮かべられ、背筋がぞくりとした。なんだろう、一気に空気が変わった。目の前にはにこにこした営業スマイルのギルド長しかいないのに、寒さを感じる。


「え、と?」

「そもそもあのクソ勇者、何日も近くの森をレベリングと言って彷徨っていただけですよね?」

「いやー、今日はいい天気ですね」

「魔王どころか魔族も見ていないはずですよね?」

「……」


 これは脅しか???

 脅しだろう、どう考えても。


 ギルド長の色気のある顔を見つめ引きつった。薄い色素の瞳がわたしを追い詰める。無駄に整った顔立ちが怖さを際立たせる。


「クソ勇者は睡眠剤を飲ませて意識が朦朧としていろ頃に男性機能を不能にしました。こうちょちょいのちょいって剣を使って。すぐに治癒魔法を使いましたから痛みはさほどなかったはずです。魔物にやられた傷よりも楽でしょう」

「え……」


 ギルド長は冷静な態度で自分の指を剣に見立てて動かして見せる。つい想像して、自分の股間がきゅうっとなり、体が無意識に恐ろしさを訴えた。恐ろしい。実に恐ろしい。さりげなく自分の股間を手で隠す。


「もともと女性に無体を働くという訴えがあったのです。今までは勇者ということで手が出せませんでしたが、魔王にやられたとなると問題ありません。本人も善戦むなしく、魔王に膝をついたと証言してくれています」


 そりゃあ、風紀の乱れによる制裁よりも、魔王にやられたとした方がいいに決まっている。反論なんてできないだろう。すでに処置された後なのだから。

 治癒魔法も欠損部分を復活するにはかなりの想像力が必要だ。一緒にいた聖女であっても無理だ。淫らな肉体関係があったとしても、まともに見たことがないと思う。欠損部分を補えるほど観察していたのなら驚きだ。

 下半身が緩そうな勇者を思い出し、その周りにいたハーレム要員を思いため息を付いた。彼女たちもあの勇者でなければもっと違った未来だったはずだ。気の毒に思うが、そもそもわたしも森の中で追放茶番劇をされているのだ。手を差し伸べるつもりはない。


 しかし、なんでも利用するな、このギルド長。淡々と話しながら、さり気なくわたしにも圧力をかけるとか。怖すぎる。


「……孤児院にしていい場所、どこ?」

「街の郊外ですよ。広々とした建屋で、元々は街の代官の愛人の別邸でした」


 いろいろ言いたいことがあったが、このギルド長を敵に回すのはまずいと本能的に理解していた。ぎこちなくギルド長の後ろにいる少女たちに目を向ける。それぞれがそれなりに可愛らしい少女たちだ。一番幼い子で6歳くらいだろうか。子供特有のふっくらとした頬をしている。


 ギルドが保護できてよかったと思う。見目のいい女の子は娼館に売られるか、貴族の腐った親父のおもちゃとして売られるかなのだ。大人になっていなくても、そういうプレイが好きな男は異世界だろうが地球だろうが、どこにでもいるのだ。仕方がないこととはいえ、保護者のいない子供には辛い世界だ。


 じっとこちらの様子を伺っていた少女たちの一人と目が合う。チョコレート色の目は大きく、人形のように整った顔立ちの少女だ。可愛いなとほっこりしていると、彼女の呟きが聞こえた。


「きも」


 うがあああああああ!

 わたしだって好きでおっさんに転生したわけじゃないわ!


 心のダメージが想像以上に大きかった。内心悶えていると、別の少女が無表情に呟いた少女を窘めた。


「本当のことを言っちゃダメ。ここはおだててできる限り(むし)り取らなくちゃ」

「そうよ、見た目が凶悪で、奴隷商人のように見えるけど案外お金持っているかも。利用できるうちは生かしておくのが鉄板よ」

「ああ、ごめん。絞って汁が出なくなってから(とど)めなのね」


 こそこそ話しなのだろうが、全部聞こえている。この子たちの様子から、わざとわたしに聞かせているのかもしれない。


 何この子たち。この考え方、この世界の標準なの?

 もう泣きたい。

 本当に日本に帰りたいよう。




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