出会いそして別れ
ここはとある町のどこにでもある普通の高校、浦野高校。桜舞い散る校庭である。
「きゃっ!」一人の男と女の肩がぶつかる。
「あ、すいません」と女が謝るが「…」男は何も言わずに先に進もうとする。「ちょっと!」と女が男を引き止めると男が女の方に振り返る。「なに?」「なに?じゃありません!いくらなんでも何も言わずに行くことは無いのではないですか!せめて何かいったらどうです!」「…話しかけないでもらえる?俺人とはあまり話したくないんだよね」「なっ!」女があまりの怒りに言葉が出ずその場に立ち尽くしていると、男が校舎の中へと進んで行ってしまった。
場所は変わり、坂木家(女の自宅)のとある一部屋。
「ってことがあったのよ!どう思う!!お兄ちゃん」
「…」なにやら深刻な表情で考え込む兄。「?聖也お兄ちゃん?」「あ、ああ…なんでもない。そいつは多分浦山だな」「浦山?」「うん。浦山 智。俺と同じ2-1の生徒だ。いつも一人でその徹底的に人を避けようとする言動からみんなに嫌われている」「お兄ちゃんも嫌いなの?」「…ああ。嫌いさ、結衣はどうだ?」「私は…
そして翌朝。校舎の玄関にて。
「あ、浦山先輩。おはようございます!」「君は昨日の…」と驚いた様子を見せる浦山に結衣が近づいていき横に並んで歩き出す「あ。私、坂木結衣って言います」「坂木って、もしかして坂木聖也の妹さん?」「はい!先輩のことはお兄ちゃんから聞いてます!それで先輩…その…放課後って何か用事とかあったりします?」「いや、特にないけど」「じゃあ、一緒に帰りませんか!?」「え!?なんで!?…っていうか話しかけるなって言ったはずだけど」「あ…そうですよね…」そして沈黙のまま1年の教室に到着する。そのまま2年の教室へ歩いていく浦山。「先輩!放課後待ってますから…」そしてHRのチャイムが鳴る。
「ねえねえ!今のって浦山先輩じゃない?」結衣の後ろの席の人が話しかけてくる「うん。そうだけど、知ってるの?」「知ってるもなにもこの学校じゃ有名よ!なんでも人嫌いの浦山なんて呼ばれてるらしいし、あの先輩は止めといたほうがいいと思うよ!」「まだそんなに話したこともないのにどんな人かなんて分かんないよ。案外いい人かもしれないし…」「いや、でも…」そのまま時が過ぎ、放課後になる
結衣が玄関に行くと浦山先輩が下駄箱に寄りかかったまま立っていた。
「!先輩…待っていてくれたんですか?」「いや、早く帰ってもやる事ないし…ここで時間潰そうかなって思っただけだ。…そろそろいい時間だし帰るか」「クスッ」と結衣が笑いながら隣に行く。「そうですね。私もいまから帰ります!」と二人が玄関をでて帰路に着く。結衣が授業であったことや、面白かったことなど一方的に話しながら二人で並んで歩いていく。そして結衣の家に着く。「あれ?先輩の家ってこの先ですか?」「いや、駅に戻って電車に乗っていくけど」
「え?!わざわざ送ってくれたんですか!?ありがとうございます!」「別に早く帰っても暇なだけだったし…」「クスッ。じゃ先輩また明日です」浦山は何も言わずに駅のほうへと歩いていく。
それから朝は先輩を待ち伏せして一緒に教室へ行き、放課後は先輩と合流して一緒に帰るといった何の変哲もない日常を送り続けて5日が経ったある日の朝。
坂木家にて
なにやら台所の方から聞こえるトントントンと料理をしている音で目が覚めた兄。「結衣、何してんだ」「あ、お兄ちゃんおはよう!…もう少しで朝ごはん出来るから」「ああ。…なんか朝飯にしては少し量が多い気がするけど」「え!いや!なんでもないよ!これは…私の弁当の分もあるから!」「それにしても…」「き、今日はちょっと量をふやそうかな〜なんて」「…まあいいけど」やがて朝ごはんが運ばれ、坂木兄妹がそれを食べ終える。「じゃあ、行ってきますお兄ちゃん」準備の終えた結衣が家を出る「おう、俺もそろそろ準備すっか」
玄関にて
「おはようございます!先輩!」「お、おう」二人が歩き始める。「先輩。今日は、その…二人でお昼をたべたいな〜って思って弁当を作ってきたんです。だからその…昼休みに屋上に来てください!待ってますから」そして教室に着き、HRのチャイムが鳴る。
昼休みになり、浦山は屋上へと向かう「いや、あいつに言われたからじゃないぞ…とくにやる事もないし…」とぶつくさ言ってる間に屋上に着く。その扉をあけ、外を見てみるとまだ誰も来ていない様子だった。浦山はとりあえず外に出てベンチに腰掛けた。それからすぐに屋上の扉が開く。「あ、先輩!待たせちゃいましたか?」「いや、ついさっき来たばっかだ」「良かった〜。先輩が来なかったらどうしようってちょっと不安だったんですよ」と言いながら結衣が浦山の隣に座る。「べ、別に他にやる事もないしな」「クスッ。先輩って優しいですね。何だかんだ言って私に付き合ってくれますし…」「いや、べつにそんな…」「あ、これ、朝言ってたお弁当です。良かったら食べてくれませんか?」「あ、ああ」浦山が結衣の差し出された弁当を受け取り蓋をあける。卵焼きやウィンナーなどごく普通の可愛らしいその弁当をまず、卵焼きから食べ始める。「どうですか?」「ん、美味しい」「良かった〜。あ。口の横にご飯粒が付いてます」と結衣が浦山に近づき、そのご飯粒をとり、自分の口に運ぶ。「あ…」と顔を赤らめ、慌てて元の位置に戻る。そっと隣の方を見てみると浦山も赤面し、ちょっと顔を背けながら弁当を食べていた。
「あ、あの先輩…一つ聞いてもいいですか?」「な、なに?」「…どうして先輩は他人を避けようとするんですか?先輩はこんなにも優しいのに他の人が皆先輩の事を誤解して嫌ってるなんて私…」「…俺、さ、母の事が大好きだったんだ。母はすごく優しくて温かくて、親父が言うには俺は親父が寂しがるくらいに母に懐いていたらしい」「いいお母さんなんですね」「ああ、本当にいい母だったよ。でも俺が5歳の頃に病気で亡くなってしまった。その時俺すっごい泣いてたらしいんだ。俺はその母の事を1年ぐらい引きずってた。そしてそのまま小学校に入学してさ、その時にある男の子がトボトボ歩いてる俺の肩を叩いてこう言ったんだ。よう!もっと明るく行こうぜ。せっかくの門出だしよ!って俺は話しかけられたことに驚いてキョトンとしていたんだ。そして入学式が終わってクラスに行ったらその男の子もそこにいた。それから俺とその男の子が少しずつ話すようになり、友達になってようやく母のことから立ち直れるかもと思い始めていた時に今度はその男の子が事故で亡くなった。」「…」
「もちろん俺はすごい泣いた。悲しんだ。そしてこうも思った。大切なものを失ってこんな思いするぐらいなら始めから何も望まなければいい。もう、何も失いたくない!と。それから今に至るってわけだ」自分の過去を話し終えた浦山の顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。「先輩…。せ、先輩!」「ん?」と浦山が結衣の方を向く。ちゅっ。結衣の唇が浦山の唇と重なる。「ん!?」数秒の間二人の唇はそのまま重なる。そして結衣がその唇を離し互いに目を合わせないまま時が過ぎ、始業のチャイムが鳴ると、結衣がその場に立ち上がり、顔を伏せたまま「も、もう授業始まるから先いきますね」と言って去っていく。去っていく背中を見つめながら「あ…」と呼び止めようとするが言葉出て来ない浦山。(何なんだよ…もう誰にも関わりたくないのに…何も失いたくないのに…)
そして放課後になり浦山はいつものように下駄箱に寄りかかって結衣のことを待っていたがいつまで経っても結衣が来ず、下校時刻になり仕方なく一人で帰った




