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小さな騎士



小さなシマリスの親友は、テーブルの上に並んだ果実に前歯を立てながら、ホロリと涙を流した。


「シャル、お前を探しておれがどれほどの大冒険をしてきたことか、想像もできないだろう。……」


シャルティナがいないことに気がついた屋敷は大騒ぎで、マースは塔の上から姿が見えないかとよじ登った。しかし、大型の鳥に捕まってしまい、さらにそれよりも大きな空飛ぶ生き物に鳥が捕まって、自然界の弱肉強食目の当たりにした衝撃も覚めぬうちに、そのまま森へ落下。運良く木の幹にしがみついて大怪我はしなくてすんだものの、野生の子供の猿にオモチャのように弄ばれ、大声を出して威嚇したものの、親猿によって牙を剥かれて命からがら逃げ出した。知らずに迷った洞窟で日をまたいだが、気づいたら熊の背中で寝ていて、元いた場所から大きく移動してしまっていた。自分がどこにいるのか、右も左もわからない状況で熊とともに旅をして、人間によって熊は狩られたと思えば、その人間に捕まって今に至るということだ。


「おれが、どれだけ、命の危機を感じたか……っ!」

「無事でよかった、マース」

「全くだ!お前もお前でなんで急にいなくなりやがって、歩けもしないくせ…に…」


マースが果物を食い散らかすのを、喉を詰まらせないかとひやひやしながら、お代わりのクッキーを戸棚から取り出すシャルティナは誰の手も借りずにそこにいた。腰掛けずに、しっかりと二本の足で立って。


「……」


ぽろり、と赤い身が口から落ち出て、わなわなと体を震わせた。くりくりと見開いた目が、娘の顔と足元を行き来する。


「ええええええええええええええええええええ〜〜!!歩いてるぅ〜〜〜!?」





小柄な体から思いもよらぬ悲鳴に、キーンと耳鳴りがして、その場の人間たちが耳をふさいだ。

慣れている少女はのほほんと、笑う。


「あのね、どうしてか歩けたのっ!わたしっ」

「っそんなアホなーーー!」

「ほんと夢見たいで、マースが来なかったら、きっとずっと夢だと思ってた」


シャルティナの問題発言に、仮面の男がひくりと口の端を震わせた。おれは夢の住人だと思われてたのかよ。と紅茶片手に頬杖をついたまま呟く。

ペラペラと喋って動く不思議な生き物を眺めていた赤布の男は、物珍しい視線で黙ったままだ。


「病気が治ったのか?それとも、ただの病気じゃなかったのか?……まあ、ともかく良かったな」

「うん」

「いやぁー、おれシャルが自分で脱走するなんて無理だって決めつけてたからな。てっきりそこの悪人面のあんちゃんと、怪しさ満点のあんちゃんが誘拐したのかと思ってよ。お前の父ちゃんも街中に捜索かけたし、えらい大騒ぎだ。ただの人攫いだったら、ネズミ一匹さえも捕まえるにも一日掛からんだろってくらいの勢いだぜ。あーあ、お前に見せてやりたいぜあの時の顔!おれも心配で毛並みも荒れるくらいだったが、親切なあんちゃんたちに拾ってもらったって知って安心したぞ!見る限り元気出しな!よかったよかった!」

「ううん、歩けるようになったのは屋敷を出た後なの。ほんとうは、この人がわたしを連れだしてくれたの」


名前を明かすわけにもいかずに男を示すと、にこにこぺらぺらと口を動かしていたシマリスは、一切の動きを止めた。

壊れたブリキのように少女と男を見比べる。


「……なにっ!!」


家の外は雨が降り続き、激しく窓を雨風がたたきつけている。

そんな時刻でもないのに、部屋の中も薄暗く、シマリスの表情がうかがえなくなる。


「こ、こいつがシャルを……?」

「うん」


ピリリとした緊張を半盗賊の男が感じ取る。

それが珍獣からなのか、相変わらず肘をついたポーズでジッとしている男からなのかはわからない。

そんな空気を察した少女が、不安げに眉尻を下げた。


「マース、」


動き出したのは、仮面の男の方だ。

シャルティナの腕を引いて、懐に抱き寄せた。

そして、稲妻の光とともに怪しい笑みを口元に浮かばせ


「大切に、囲まれている娘が気になるのはどんな男だってあるだろう」

「シャルは誰とも会ってないぞ。なんでシャルを知ってたんだ」

「娘は外を知らずとも、外に少女の噂がないわけじゃあない。おれは、シャルを知っていた。ずっと、知っていただけだ」


そういうと、懐から二通の便箋を取り出した。

シマリスも少女も見覚えのある真っ白な便箋だ。

そこにある宛名と差出人を見てマースは口をあんぐりとあけた。


「“月の方へ”」


それは、月が鮮やかな舞踏会の夜に出会った二人の手紙だった。

マースはあの場にいたし、ひっそりとやり取りをしていたことも知っていた。



―― 迎えに行きます。必ず



確かに言っていた。

あの王子は、言っていた。

マースの記憶の中で、バルコニーから見下ろしたときの王子の立ち姿と、今目の前にいる男の姿が交差する。

なぜ、気づかなかったのか。この男は、黒髪だ。


「……うううううえええええええ!!!!」


ピカッと窓の外が光って、かろうじて部屋を照らしていた明かりが消えてしまう。

抱きしめられているシャルティナは、頬を包み込まれて男を見上げた。

そして、降ってくる唇を愛しい思いで受け止めた。






「かか、かっ………駆け落ちかお前らああああああ!!!!」
















笑いあり涙ありの小さなマースの大冒険


そのうち書いてみたい……

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